言葉で溺愛する男
「編集長が直々にですか?」

驚いた声が上がる。

私はバッグを手に取りながら、さらりと返した。

「遊ばせておくわけにはいかないでしょ」

ヒット作は、待っていても生まれない。

数を出して、当てるしかない。

それが、この仕事の現実。

——だからこそ。

売れるかどうか分からない作家に、時間なんて割いていられないはずなのに。

エレベーターのボタンを押しながら、私は小さく舌打ちした。

「……ほんと、無駄よね」

そう呟いたくせに。

なぜか、胸の奥がざわついている。

雨宮蓮。

一度だけ読んだ、あの原稿。

言葉のひとつひとつが、やけに鮮明で——

まるで、心の奥を直接なぞられるみたいだった。

……だから、嫌なのよ。
< 3 / 60 >

この作品をシェア

pagetop