私を言葉で抱く年下作家の溺愛
ああいう男は。言葉だけで、人を狂わせる。

エレベーターの扉が閉まる。

その瞬間、ふと思った。

——もし、あの男が本気で書いたら。

きっと。誰か一人くらい、人生ごと壊す物語を書く。

そして。その“誰か”が、自分になる可能性を。

私はまだ、この時知らなかった。

「……確か、ここね」

スマホの地図と目の前の家を見比べる。

古びた平屋建て。庭は手入れされているようで、どこか放置されているようでもある。

生活感はあるのに、人の気配が薄い。

——いかにも、“作家の家”。

私は小さく息を整えて、インターホンを押した。

「ごめんください。東洋出版の者です」

……反応がない。

もう一度、押す。

「雨宮先生。編集長の神谷です」
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