私を言葉で抱く年下作家の溺愛
「裏口から出てくれないか」

一瞬、意味を理解するのに時間がかかる。

「仕事、遅れるだろ」

続けて言われて、ようやく、状況が腑に落ちた。

「あ……そうね」

頷くしかない。彼の言っていることは、正しい。

でも——胸の奥に、何かが引っかかる。

私はキッチンの奥にある裏口へ向かった。

ドアノブに手をかける。その時、背後から、声がかかる。

「気をつけて行けよ」

振り返ると、蓮がこちらを見ていた。

さっきまでの作家の顔じゃない。

いつもの、私に向ける目。

「……ありがとう」

小さく返す。そして、外に出た。

静かな裏道。さっきまでの騒がしさが、嘘みたいに遠い。

歩き出す。でも——耳には、まだ残っている。
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