スターライトパレード

第4話 初めて見るステージ

週末――
セナ君にもらったチケットを手に、私は横浜にいた。

電車の中から、もう周りはライブTシャツ姿の女の子たちでいっぱいだった。
髪にリボンをつけている子、うちわを大事そうに抱えている子、連れと楽しそうに今日の話をしている子。
みんな、ライブが始まる前からきらきらして見える。

目の前に広がる会場の大きさに、思わず圧倒される。
……こんな大きな会場が満員になるんだ。
何人くらい入るんだろう。ちょっと想像もつかない。
駅からここまで歩いてくるだけでも、同じ方向に向かう人がずっと途切れなかった。
その全員が、これから同じステージを待っているのだと思うと、それだけで少しくらくらした。

でも……
セナ君の性格なら、そんな緊張もきっと楽しんじゃいそうな気がした。
人の多さとか、歓声とか、大きな会場とか。
そういうものに飲まれるんじゃなくて、むしろ全部自分の味方にしてしまいそうだ。

人の流れに乗って、チケット確認の列に並ぶ。
周りの子たちは慣れた手つきでスマホを開いて、席を確認している。
でも、私にはセナ君がくれたチケットしかない。

……え、これ本当に入れるのかな?
もしかして……からかわれてたりしないよね?
入れなかったらどうしよう……

そんな不安を抱えたまま、スタッフさんにチケットを見せる。
すると対応してくれた人が、一瞬だけ表情を変えて、無線で誰かと連絡を取りはじめた。

「……しばらくお待ちください」

そう言われて、列から外される。

どうしよう……
ニュースで『チケット転売で逮捕』とか見たことあるけど……
いや、そんなはずない。ないけど……怖い……

変な汗が出てくる。
このまま別室とか連れていかれたらどうしよう、なんて、考えなくていいことまで次々浮かんでしまう。

びくびくしていると、スーツ姿の男性がこちらに近づいてきた。

「招待チケットの方ですね?」
「は、はい」
「スターライトパレードのマネージャーをしている八神と申します。ご案内しますので、こちらへ」
「マネージャーさん……!私、先日セナ君と知り合った音羽 奏と申します」

言ってから、何その自己紹介、と自分で少し恥ずかしくなる。
でも八神さんは気にした様子もなく、穏やかに会釈してくれた。

招待チケットだったんだ……

言われるがままついていくけれど、内心のどきどきは全然止まらない。
マネージャーさんが出てきたことで逆に話が大きくなって、まだ心が追いついていない。
このまま連れていかれて、もし奥に警察とかいたらどうしよう……なんて、まだちょっとだけ疑ってしまう自分がいる。

そんな不安をよそに、大きな紙袋を手渡された。

「こちら、今回のライブのグッズ一式になります」
「えぇ!?グッズ!?」
「セナから『全部渡してほしい』と頼まれてまして。お席はこちらです。あとでまたお声がけに伺いますので、どうぞライブをお楽しみください」

案内された席は……アリーナ席、それも花道のすぐそば。
いわゆる『関係者席』らしい。

え、近い。
近すぎる。
こんな席、本当に私が座っていいの……?

紙袋を抱えて席に座り、そっと中身を確認する。

パンフレット、Tシャツ、うちわ、リボン、ペンライト……
いろんなグッズがぎっしり詰まってる。

わ……これが、ペンライト……!
一度持ってみたかったやつ!

カチカチとボタンを押すと、色がどんどん変わる。
なにこれ、すごい……
一本の棒なのに、押すたびに世界の色が変わるみたいで、つい何度も切り替えてしまう。

なんだか、とんでもない世界に来ちゃったみたい。
パンフレットを開き、パラパラとページをめくる。
ライブへの意気込み、撮り下ろしのスナップ、メンバー同士のやりとり。
写真からでも、彼らの魅力がまっすぐに伝わってくる。
笑っているだけの一枚なのに、どうしてこんなに目を引くんだろう。

格好いいな、と思う反面、どうしても頭に浮かぶ。

「……なんで私?」

セナ君の言葉がよみがえる。

『絶対楽しいから!』

……うん、きっと楽しいんだよね。

だって周りの女の子たち、開演前から涙ぐんでる子だっているくらい。
友達と手を握り合ってる子も、静かに目を閉じて深呼吸している子もいる。
それくらい、心から楽しみにしてる。

あの大きなステージに、セナ君が立つ。
……私の方が緊張してきた。

自分がステージに立つわけじゃないのに、不思議な高揚感と緊張で胸がいっぱいになる。
胸の奥がぎゅっと締めつけられて、なんだか泣きたくなるような感覚になった……そのとき。

会場が一気に暗転した。
直後、耳を劈くような歓声が場内を覆い尽くす。
その歓声と同時に、観客が一斉に立ち上がった。
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