スターライトパレード

第5話 一番近い景色

たくさんの機材に囲まれながら、髪を直してもらっているセナ君に、八神さんが声をかける。

「よう!ステージからでも気づいたわ!!」

……わわっ……!

アイドルって、すごい……
イケメンだとは思っていたけど、本番モードのセナ君は、もう桁違いだった。
メイクも衣装も照明も、全部が似合いすぎてる。
いつも私の前でわりと好き勝手しゃべっている彼とは、まるで別人みたいで、思わずどきっとしてしまう。

「あ、この子が、セナが言ってた子?」
「レオ!そうそう!オレらに曲作ってくれんだよ!」
「交渉成立したの?絶対ムリだと思ってたけど」
「……あの、まだ作るとは言ってませんけど……」
「やっぱりね。セナ君ってそういうとこあるよね」
「レン~~~!」

そこへ、また別の声が飛んでくる。

「セナー、次のスタンバイ行こか~」
「マオ!今行くー!」

……人生で、こんなにたくさんのイケメンを見ることってある?

しかも全員、画面越しじゃなくて本物だ。
もう現実味がなさすぎて、セナ君が目の前にいることすら信じられなくなる。
ライブの熱気が残る舞台袖で、みんなそれぞれ忙しそうに動いているのに、どこか余裕もあって。
この人たちは本当に、さっきまであの大きなステージの真ん中に立っていたんだと、今さらみたいに実感した。

「なぁ、次の次がラストの曲なんだけど……あそこ。あのステージの裾から、オレたちの姿を見てほしいんだ」
「ステージの……裾?」
「そ。オレらが見てる景色に、一番近い場所」

そう言ってから、セナ君は少しだけ真剣な顔になる。
その顔に、私の背筋も自然と伸びた。

「そっから見て、『やっぱり曲作れない』って思ったなら、それでもいい」
「……」
「でも、なんとなく……これが最後になるなら、あの景色だけは見てもらいたかったんだ」

最後。
その言葉が、胸の奥に小さく落ちる。

「普通は見られない景色なんだよね?……ありがとう」
「ん。じゃ、行ってくる!」

そう言い残して、彼はステージへと駆けていった。
迷いのない背中だった。
さっきまで私と話していた人と同じなのに、舞台へ向かう後ろ姿だけで、もう空気が違う。

『これが最後になるかもしれない』……

……そうだよね。
彼は、私に曲を作ってほしくて、ここまでしてくれている。
ライブに招待して、舞台袖にまで入れてくれて、見せたい景色があるって言ってくれた。
私がNOと言えば、それで終わりだ。
もう次はないのかもしれない。

いまさら、そのことに気づくなんて。

彼が見せたいって言った景色って……どんな景色だろう?
私はスタッフさんに案内されながら、ステージの裾からそっと覗いてみる。

そこには、眩しい照明に包まれて輝く彼らの姿があった。
客席から見たときより、もっと近い。
もっと生々しい。
ステージの熱が、そのまま裾にまで伝わってくる気がした。

立ち位置に向かって走る足音。
イヤモニを気にする仕草。
曲の入りを待つ、ほんの一瞬の呼吸。
そんな細かいものまで見えてしまう距離なのに、それでも彼らはまっすぐ前を向いている。

観客席からじゃ、わからなかった。
こんなにも多くのファンが彼らに会いに来てくれて、
そして、こんなにも彼らを愛しているなんて。

名前を呼ぶ声。
ペンライトの揺れ。
曲のたびに変わる歓声の色。
あの広い会場いっぱいに、七人を待っていた気持ちがあふれている。

スタッフの数にも驚いた。
インカムで指示を飛ばす人、転換の準備をする人、照明のタイミングを合わせる人、裾で見守る人。
彼らを支えているのは、こんなにも多くの人たちなんだ。
全員が、それぞれの役割を全力でこなしていて……
そのすべてが重なって、『アイドル』が作られてる。

……曲を作るっていうのは、私もその輪の中に入るってことなんだ。

それって……
とんでもなくすごいこと、なんじゃない?

私一人の自己満足じゃない。
セナ君だけのためでもない。
メンバーが歌って、スタッフが動いて、ファンが待っている。
そんなたくさんの人の真ん中に、自分の作った曲が置かれるかもしれないってことだ。

なのに。
セナ君は、そんな重さを一言も押しつけなかった。
ただ『作ってほしい』って、まっすぐに私に声をかけてきた。
怖がらせないように、でも本気だけは曲げずに。
それってきっと、彼自身もすごく勇気を出して言ってくれたんじゃないかな。

私だけ、逃げるわけにはいかない。

『やったことがない』なんて、もう、その場しのぎの言い訳じゃ通用しない。
できるかどうかじゃなくて、向き合うかどうかなんだ。
そんなことを、あの景色が何も言わずに教えてくる。
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