スターライトパレード

第6話 気持ちと音

LINEの着信音が鳴る。
まさか、さっきの呟きが聞こえたわけじゃないはずなのに、画面に『セナ君』の名前が表示された瞬間、心臓が跳ねた。

『すすんでるー?』
「……全然……」
『ぶはっ!だと思った!
今さ、ライブのリハ中でさ。埼玉でライブなんだけど、来ねー?』
「え!?行っていいの!?」
『おー、来い来い!そんな沈んでたら、いいもんなんてできねーよ。
来たら絶対楽しいからさ!』

脳裏に、前に見たあのライブの光景が浮かぶ。
光と歓声と、ステージの熱。
考えるより先に体が動いて、私はほとんど反射みたいに電車に飛び乗っていた。

イヤホンからは、何度も繰り返し聴いたスターライトパレードの曲。
流れる音に包まれながら、ぼんやりと窓の外の景色を眺める。
駅がひとつ過ぎるたび、胸の奥の重たさが少しずつ揺れて、沈んで、また浮かぶ。

私は……どんな曲を作りたいんだろう。
どうせ作るなら、ただ歌うだけの曲じゃなくて、メンバーのみんなが自分たちの曲だって思えるものがいい。
ライブで歌うたびに、好きになってもらえる曲がいい。
何年たっても、ふと口ずさみたくなるような曲がいい。

……って、また自分でハードル上げてる。

口に出してはいないのに、自分の理想だけがどんどん大きくなっていく。
できるかどうかもわからないくせに。
でも、そういうところを中途半端にしたくない自分もいた。

移動中、セナ君からLINEが届く。

名前を伝えておけば入場できること。
リハーサルも見学できること。
裏口の場所。
何時までに来ればいいか。
思っていたよりずっと細かく、次々と案内が送られてくる。

本当に呼ぶつもりだったんだ。
冗談でも、その場の勢いでもなく。

裏口に着くとすぐ、警備の人が対応してくれて、マネージャーの八神さんに案内された。

「会場にいる間は、このスタッフカードを首にかけてください。これでほとんどのエリアに入れるはずです。メンバーは今、楽屋で休憩中ですが、会いますか?」
「はい!お願いします!」

即答してから、ちょっと食い気味すぎたかも、と一瞬だけ恥ずかしくなる。
でも八神さんは何も言わず、先を歩いてくれた。

楽屋に向かう途中、すれ違うスタッフの人たちは、衣装の確認、立ち位置、カメラ、動線のチェック……
数時間後に始まるライブのために、膨大な準備を重ねている。
誰かが走り、誰かが指示を出し、誰かが静かにうなずいて動く。
その全部が止まらず回っていて、ここには『本番前』の空気がぎっしり詰まっていた。

ファンに最高の時間を届けるために、たくさんの人が、時間も労力も惜しまず、本気で動いている。
それが、見ているだけで伝わってきた。

「おっ、思ったより早く着いたなー!」

楽屋の扉を開けた瞬間、そこにいたのは……

カードゲームをしていたり、本を読んでいたり、スマホをいじっていたり。
思い思いにくつろぐ、バスローブ姿のメンバーたちだった。

イケメンのバスローブ集団って……
目のやり場に、ものすごく困る……

「こんな格好でごめんね~。さっきまでリハで汗かいてたからさ」

怜央さんが、戸惑う私の気持ちを察してくれたみたいに笑う。

ステージではあれほどキラキラしてたのに、休憩中はこんなに力が抜けているんだ。
さっきまでの緊張感が嘘みたいで、その切り替えのすごさに、ただただ圧倒される。
でも、だらしない感じは全然なくて、少し休んだらまたすぐ本番の顔に戻るんだろうなと思わせる空気があった。

「そういえば……差し入れのコーナー、途中にあったよね?私、慌てて来ちゃって、なにも持ってこられなかった……」
「気にしなくていいって。ほとんど残って、オレらの夜食になるから」
「そうなの?明日もここでライブって聞いて、せめて差し入れだけでもって思ったんだけど……」

そのとき、本を読んでいたリーダーの椿さんが顔を上げた。

「せっかく来たなら、明日も観てけば?俺らが泊まってるホテル、一部屋くらい余ってるはずだし」
「え!?それは、さすがに迷惑じゃ……」
「こういう時って、余裕持って部屋押さえるんだよ」
「いいじゃん!土日で学校ないんだろ?八神さん、部屋あったらお願いしまーす!」
「……お前らなぁ……はぁ……」

ため息をつきながら、部屋を確認しに出ていく八神さんの背中を見て、なんだか申し訳ない気持ちになる。
みんな当たり前みたいに話してるけど、普通に考えて厚かましすぎる気もする。
でも、そんな私の遠慮を気にする様子もなく、メンバーたちはまた自然にそれぞれの会話へ戻っていった。

「ところで、今日って観る場所選べたりするのかな?前回はすごく近くで見せてもらったし、今回はステージ全体を遠くから観てみたくて……立ち見でもいいから……」
「え~?めっちゃ贅沢言うね~」
「遊里、おまえが言うなや!」

真央君が遊里君をたしなめる。
……そうだよね。
入りたくても入れないファンも、たくさんいるんだ。

「じゃあさ、あそこはどう?」

そう言ってくれたのは、信さんだった。

細いエレベーターに乗って、さらに階段をのぼる。
途中から壁の色も空気も変わって、だんだん『お客さんが入る場所』じゃないところへ来ているのがわかった。

「ヘルメットは必須ね」

そう言って渡されたのは、本格的なヘルメットだった。

「今回はさ、フライング演出があるから、舞台上部の『吊り設備エリア』まで登れるんだよ」
「フライング……?」
「そ、あそこからあそこまで!ワイヤーで吊るされて移動するんだよ」

説明されても、すぐには現実味がない。
でも信さんは慣れた様子で前を歩いていて、その背中を追いながら、私はますますとんでもない場所に来てしまった気がしていた。

案内されたのは、天井付近の照明や吊り物の作業をする通路だった。

「……すごい。ほんとに『特別な場所』ですね」
「でしょ?でも危ないから、絶対スタッフの指示には従ってね」

ステージも客席も、まるごと見渡せる。
スモークの匂い、ほんのり響く低音、照明の熱……
真上から見るステージなんて、想像すらしていなかった。

人がまだまばらな客席も、準備中の照明も、舞台の上を走るスタッフの姿も、全部が小さく見える。
なのに、音だけはちゃんと近い。
低音が足元からじんと伝わってきて、ここも確かにステージの一部なんだと思い知らされる。

信さんはリハに戻り、私はその場所で一人、リハーサルの続きを見守った。
あんなに広い会場が、あと数時間で埋まるなんて……
想像すると、それだけでまた胸がざわつく。

本番まで、あと四時間。
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