スターライトパレード
本当に、疑問だった。
私なんかより上手い人は、たくさんいる。
作曲を学んでる人だって、プロを目指してる人だって、きっと山ほどいる。
なのに、ただピアノが弾けるだけの私に……
どうして。

「オレさ、たしか五年前くらいかな。まだ研究生で、全然デビューの気配もなくて。腐ってたんだ、いろんなこと」

あまりにもまっすぐに言うから、私は一瞬返事を忘れた。

「……腐ってた?」
「親に誘われて、従妹のピアノコンクール見に行ったんだ。トリで出てたのがおまえでさ。いろんな大会で優勝してて、優勝候補だって聞いてたんだけど……オレより5歳も下の小学生が?って思った」
「コンクール……」
「でもさ、演奏始まった瞬間、全然ちげーの。同じピアノなのに、なんでこんなに音が違うんだって思った。輝いて見えたんだよ、音が」

……あの頃の記憶がよみがえる。

ピアノを弾くのが、楽しくてたまらなかった。
昨日より少しでもうまく弾けたら、飛び跳ねるほど嬉しかった。
時間を忘れて、夢中で鍵盤に向かっていた。
うまくなりたい、その気持ちだけで毎日ができていた頃。

「この子、どれだけ練習してきたんだろうって思った。オレなんかの想像が及ばない毎日を、積み重ねてきたんだろうなって」
「……」
「そんな演奏、聴いたらさ。腐ってる自分が、めちゃくちゃダサイって気が付いた。レッスンがしんどいとき、よく思い出してた。今でも、頭の中でおまえのピアノが鳴ってる。あのときのおまえに、オレは何度も救われたんだ」

……私の演奏で、救われた人がいたんだ。

そんなふうに受け取ってくれた人がいたなんて、考えたこともなかった。
勝ちたいとか、うまくなりたいとか、そんなことでいっぱいだったあの頃の音が、
誰かを支えるものになっていたなんて。

「いつか会えたら、お礼を言いたかった。だから、ここでピアノ弾くおまえを見つけて……これは運命だって思った。おまえが作る曲を、聴いてみたい。絶対に歌いたくなる」

……ありがとう。
その気持ちは、本当にうれしい。
うれしくて、胸の奥が痛いくらいだった。

彼は、自分たちの音楽を、私に託そうとしてくれている。
軽い思いつきなんかじゃなくて、ちゃんと理由があって、ちゃんと覚えていて、それでここに来ている。
わかる。
わかるからこそ――

「セナ君の気持ちは、本当にうれしい。だけど、ダメなんだよ。私、もう弾けない……」
「なんでだよ!作曲やったことないってだけなら、やってみりゃいいだろ!」
「わからないの!?クラシックでコンクールまで出てた私が、なんでアイドルの曲なんか作らなきゃいけないのよ!!」

……言った瞬間、後悔した。

セナ君が、一瞬だけ、見たことのない表情を浮かべる。
まっすぐだった目が、はじめて揺れた。
その顔を見た途端、自分がどれだけひどいことを言ったのか、遅れてわかった。

違う。
そんなふうに言いたかったんじゃない。

彼の想いに応えられない自分が、悔しくて。
うれしいのに受け取れない自分が、情けなくて。
その苛立ちを、私は彼にぶつけてしまった。

……謝らなきゃ。

そう思った、そのとき――

「ひょっとして、奏……?」
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