花咲く森のから騒ぎ
身体の中で未知なる光りが炸裂しているような、そんな感覚が弾けている。
「うそっ。そんな、馬鹿な……」
私は、膝をついた。次の瞬間、目の前の景色が変わった。
「この手……」
水仕事を知らない手。これは、誰の手? 私はハッとなる。なんで目の前に私自身が立っているの。どういうこと?
私そっくりの、黒髪の貧しげな娘がこちらを見つめて微笑んでいる。
「分かったでしょう? こうやって入れ替わったのよ。子供の頃は理屈が分からなかったの。だけど、今は分かる。花が満開になると魔法が使えるのよ」
「俺は、前からこのカラクリに気付いていたぜ。実践することが出来るのは十二年に一度だけだ。口が触れることで魂が移る。今度は俺とやってみるか?」
「なななななっ! 何を言うのよ!」
「マイラ、照れすぎだぜ」
「いいから、わたしを元に戻してよ」
元に戻りたいのに、近寄ろうとしたらチェルシーが頑なに首を振った。
「あたしには好きな人がいるの。寄宿学校で知り合った少尉が好きなの。あたしを助けて、あたしは王子の愛人になりたくない」
ムキになってチェルシーが絶叫している。といっても、その顔は、私なんだけどね……
「あたし、男の子として暮らしている間、ずっと夢見ていたのよ。普通の女の子として静かに暮らしたい! 昔、人さらいに遭ったことがあったわよね。あの時と同じよ! あたしは、王子に連れ去られるなんて嫌なのよ!」
「はぁ?」
いくらなんでも、公式寵姫の件と人さらいを一緒にしてはいけないだろう。
誘拐事件なんてずいぶんと前のことだわ。今となっては懐かしいぐらよ。
あの当時、異国の貴族が自分の領土での働き手を必要としていた。だから、ならず者が誘拐まがいのことをして、ちいさな男の子を連れ去る事件が頻発していたようである。
ここから五十里ほど離れた町では十人もの子供が一晩で消えているという。
遠い夏の日。私は十三歳だった。チェルシーとジョシュアの三人で川遊びに出かけたのである。
私は木登り。ジョシュアは花摘み。チェルシーは釣りをしていた。
あの時、泣き虫で内気なジョシュアはルンルンと鼻歌を口ずさんでいた。その姿はまるで女の子のように愛らしかった。一人で花冠を編んでいたジョシュアを強引に荷馬車に乗せようとした男がいたのである。
『ほほう、こいつは高く売れそうだな』
ジョシュアの口を塞ぐと恐ろしげな声で脅かしていた。
『おい、坊主、大声を出すな。おとなくしねぇと、てめぇの顔をぶん殴るぞ』
三十路の赤毛の男が、そんなふうに怒鳴り散らしながらジョシュアの身体を縄で縛り上げている。
木の上からそれを見ていた私は、すぐさま夢中になって駆け出していた。
『やめなさいよ! ジョシュアを放しなさいよ!』
あの時は私も必死だった。十三歳の子供だったのだけれど大人相手に闘って何とか追い払おうとしたのだ。
『おまえも可愛い顔しているな! 売春宿に売り飛ばしてやるぜ』
私は棒切れを振り回して抵抗した、その最中、私は転んで腕を骨折した。痛みに顔をしかめながらも、ジョシュアを救おうとして歯を食いしばる。
『ふふっ、おめぇが、おとなしくしねぇから悪いんだぜ』
『マイラに手を出すな!』
「うそっ。そんな、馬鹿な……」
私は、膝をついた。次の瞬間、目の前の景色が変わった。
「この手……」
水仕事を知らない手。これは、誰の手? 私はハッとなる。なんで目の前に私自身が立っているの。どういうこと?
私そっくりの、黒髪の貧しげな娘がこちらを見つめて微笑んでいる。
「分かったでしょう? こうやって入れ替わったのよ。子供の頃は理屈が分からなかったの。だけど、今は分かる。花が満開になると魔法が使えるのよ」
「俺は、前からこのカラクリに気付いていたぜ。実践することが出来るのは十二年に一度だけだ。口が触れることで魂が移る。今度は俺とやってみるか?」
「なななななっ! 何を言うのよ!」
「マイラ、照れすぎだぜ」
「いいから、わたしを元に戻してよ」
元に戻りたいのに、近寄ろうとしたらチェルシーが頑なに首を振った。
「あたしには好きな人がいるの。寄宿学校で知り合った少尉が好きなの。あたしを助けて、あたしは王子の愛人になりたくない」
ムキになってチェルシーが絶叫している。といっても、その顔は、私なんだけどね……
「あたし、男の子として暮らしている間、ずっと夢見ていたのよ。普通の女の子として静かに暮らしたい! 昔、人さらいに遭ったことがあったわよね。あの時と同じよ! あたしは、王子に連れ去られるなんて嫌なのよ!」
「はぁ?」
いくらなんでも、公式寵姫の件と人さらいを一緒にしてはいけないだろう。
誘拐事件なんてずいぶんと前のことだわ。今となっては懐かしいぐらよ。
あの当時、異国の貴族が自分の領土での働き手を必要としていた。だから、ならず者が誘拐まがいのことをして、ちいさな男の子を連れ去る事件が頻発していたようである。
ここから五十里ほど離れた町では十人もの子供が一晩で消えているという。
遠い夏の日。私は十三歳だった。チェルシーとジョシュアの三人で川遊びに出かけたのである。
私は木登り。ジョシュアは花摘み。チェルシーは釣りをしていた。
あの時、泣き虫で内気なジョシュアはルンルンと鼻歌を口ずさんでいた。その姿はまるで女の子のように愛らしかった。一人で花冠を編んでいたジョシュアを強引に荷馬車に乗せようとした男がいたのである。
『ほほう、こいつは高く売れそうだな』
ジョシュアの口を塞ぐと恐ろしげな声で脅かしていた。
『おい、坊主、大声を出すな。おとなくしねぇと、てめぇの顔をぶん殴るぞ』
三十路の赤毛の男が、そんなふうに怒鳴り散らしながらジョシュアの身体を縄で縛り上げている。
木の上からそれを見ていた私は、すぐさま夢中になって駆け出していた。
『やめなさいよ! ジョシュアを放しなさいよ!』
あの時は私も必死だった。十三歳の子供だったのだけれど大人相手に闘って何とか追い払おうとしたのだ。
『おまえも可愛い顔しているな! 売春宿に売り飛ばしてやるぜ』
私は棒切れを振り回して抵抗した、その最中、私は転んで腕を骨折した。痛みに顔をしかめながらも、ジョシュアを救おうとして歯を食いしばる。
『ふふっ、おめぇが、おとなしくしねぇから悪いんだぜ』
『マイラに手を出すな!』