花咲く森のから騒ぎ
 生真面目で忠実な初老の下男のテイラースが本気で怒っている。私も、ケイティに平手打ちされて頬に赤みが走った。
 
「チェルシー、あんた、恥を知りなさい!」

「おい、やめろよ。そいつは悪くない」

 ジョシュアは鼻血を出しながら気丈に立ち上がっている。
 
「ケイティ、その娘はチェルシーじゃなくてマイラなんよだ」

「訳の分からないことを言わないでよ」

 私は仲裁するかのように割り込み、ケイティを睨んだ。

「ケイティ、何も、そんなふうにいきなり殴らなくてもいいじゃないの。これには訳があるのよ。わたしはマイラよ」

 決して悪い人ではないけれど、ケイティは少し短気なところがある。

「チェルシー、また人格を変えたのね! 頭がおかしいフリをすれば宮廷に行かなくて済むと思っているのね!」

 ケイティは怒り心頭である。
 
「もう騙されないわよ!」

「ケイティ様、少しは落ち着いてくださいまし。チェルシー様は子供の頃の事故のせいで混乱しておいでなのかもしれません。ここは呪いの森ですぞ。早く出ましょう」

 信仰深くて律儀な白髪のテイラーが声を潜めながら周囲を窺っている。ケイティはまるで睨むような表情で言い放った。

「馬鹿な娘をきっちり叱るのは姉としての義務だわ。チェルシー! 二度と、こんなことしたら許さないからね!」

「ここを離れる訳にはいかないのよ……。だって、わたしは……」

 私とチェルシーの魂は入れ替わったままなのだと説明したい。それなのに、ジョシュアが目を細めている。言うなという顔なのね。

 分かったと、私は目で合図する。そして、は仕方なくバルモア家の湖畔の別荘に戻ったのだ。罰として、ジョシュアだけが地下室に閉じ込められている。 

 チェルシーはマイラ(つまり、わたし)の身体なので、マイラとして二階の部屋に籠っている。

 私は、扉の向こうにいるジョシュアに話しかけた。

「ジョシュア、わたし、こっそり鍵を盗んでこようか?」

「やめとけ。テイラーは頑固なじじぃだ。股間に鍵を隠している。それを、おまえが盗むなんて無理だ」

 ふうーっと疲れたように溜息をついている。

「どうするの? わたし、チェルシーだと思われているのよ」

「チェルシーの身体は今まで俺が管理してきたんだ。色んな男の子から求愛されて大変だったぜ。こんな綺麗な女の子、めったにいないからな」

「そうよ。チェルシーは美人よ。言われなくても分かっているわ」

「王子の愛情を冷まさせる妙案かあれば苦労はしない。俺にとって、チェルシーは大切な家族だ。巻き込んで申し訳ないと思っている」

 ジョシュアも切羽詰ったように言う。

「誰も傷つけることなく、すべてを丸く治める方法をみつけたいもんだな」

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