花咲く森のから騒ぎ
 棚には高価な陶器や天体器具が飾られていて、その棚の前にある机に豪華な銀製の鳥篭が置かれている。

「もしかして、これが噂の七色の羽を持つ鳥なのですか?」

 初めて見たわ。きゃー、素敵。不思議な色合いなのね。
 
 七色の鳥は人間に決して懐かないとされている。それなのに、よく飼いならされているのね。
 
「そなたは初めて見たであろうな。チェルシー、もっと、近くに寄って見るが良いぞ。それは、この地方の森に、十二年に一度だけ訪れる珍しい鳥なのだ。どういう訳か、この鳥は、十二年前、自ら王城にやってきた。父上の後妻のイヴォンヌが、この鳥を見ると笑ったのだ。それ以来、ずっと王城にいる。名前はダビデじゃ。物真似が得意な鳥だ。その鳥はチェスも得意なのだよ」

「チェス?」

「ああ、そうだ。余よりも頭がいい」

 へーえ。さすが伝説の鳥よね……。なーんて呑気に感心している場合ではない。

「ちょっ、ちょっと待ってください!」

 昼間だっていうのに、私は、いきなりキスされそうになったのよ。

「お、王子、おやめ下さいませっーーー!」

 私は、力いっぱいウイリアム王子を押しのけようとする。迫る分厚い唇にゾッとなる。うわっ。ちょっとニンニク臭い息が鼻先にかかる。いやん!

『チェルシー! チェルシー! チェルシー!』

 鳥が叫んでいる。鳥篭の中で鳥が羽を広げて暴れている。王子の部屋の豪奢な鏡にチェルシーの姿が映っている。

 私が、ウイリアム王子に襲われそうになっている姿がそこにある。この身体は従妹のものだけど、チェルシーの身代わりとして王子に襲われるなんて耐えられない。
 
 チェルシーの胸元に顔をうずめようと迫り来る王子を何とかしたい。
 
 まさか、花瓶を振り下ろす訳にもいかない。ああ、どうしよう。
 
「我が心の天使、チェルシー、余はそなたに夢中なのだ」

 そんなの知らないわよ。気安く触らないでよ! 
 
 思いっきり怒鳴りたいが、王子に露骨に逆らってはいけない。どうしたらいいの。誰か助けて!
 
 その時、ジョシュアの姿を無意識のうちに思い浮かべていた。彼、まだ閉じ込めれているのかしら。どちらにしても、ジョシュアに頼ることが出来ない。自分で何とかしなくてはならない。私は、穏便に王子を押し返そうとして、その肩を遠ざけていると王子が囁いた。

「チェルシー、照れなくても良いぞ」

「違います。わ、わたしの話を聞いてくださいませ!」

 こうなったらジョシュアと付き合っているという嘘をついてしまおう。そうよ。何としても王子に嫌われてみせるわ。

 そんな事を考えていると、ヘンな音が聞こえてきた。

 何だ? カタカタという金属音。

 やだ。もしかして地震なのかしらと思ったがそうではないのね。カタカタカタッ。大きな鳥篭が大きく揺れている。そのまま、ガシャンと鳥篭ごと落下したかと思うと、金属製の籠が転がった弾みで出入り口の止め具が外れた。まずいんじゃない?
 
「おおおお、王子! 貴重な鳥が……!」

 思わず、甲高い声を出して指差していた。だって、逃げた鳥がパタパタと慌ただしく羽ばたいているんだもの。

「大変です。王子様、七色の鳥が逃げ出しましたよ」

 今、まさに南向きの窓の隙間から飛び出ようとしている。
 
「むむっ! なんということだ!」

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