花咲く森のから騒ぎ
従妹の肩をつかんでキスしようと身構えていく。しかし、私は躊躇っていた。
「うわー。照れるわね。チェルシー、ちょっと目を閉じてよ」
「やだぁ。可愛い。マイラお姉ちゃんったら何を照れているのよ」
「わたし、モテないからキスとか免疫がなくて、どうにも恥ずかしいのよ」
「マイラは、いつも、そんなふうに謙遜しているけど、マイラを好きな男性は大勢いるわ。二年前の村祭りの夜、ビクトルっていう農夫がマイラに告白しようとしていたのよ。だけど、あたし、咄嗟に、ビクトルから渡してくれって頼まれた手紙を、マイラに渡さなかったの!」
「ビクトル?」
いつも、林檎や梨を分けてくれる背の高い物静かな人だったな。私より四つほど年上の感じのいい青年だったのよね。
「ごめんなさい。ビクトルがマイラを風車小屋に呼び出したの。だけど、行かせたくなくて、あたしが小細工したの!」
結局、その後、ビクトルは他の女の子と結婚して、今は一児時の父となっている。別に構わないれど、そんなことがあったとは知らなかった。
「あたし、ジョシュアがマイラを好きなことを知っていたの! マイラもジョシュアの事が好きでしょう?」
あの当時のジョシュアは女の子の外見だった。あの子が来ると心が華やいだ。だけど、その時は、風変わりな従妹として受け入れていた。
でも、そう言えば、チェルシーだった頃のジョシュアは、いつも何か言いたそうにしていたような気がする。
『マイラ、お誕生日、おめでとう』
一流の帽子職人が作った綺麗な夏用の帽子をプレゼントしてくれた事もある。帽子のリボンは綺麗な赤い絹だった。
『マイラの黒髪に合ってる』
『いつも貰ってばかりで悪いわね』
『お前達と出会ったおかげで無事に生きることが出来るんだ。何度も言っているけど、俺には秘密がある』
『あなたは、本当はチェルシーではなくジョシュアだっていう話?』
『いや、その秘密とは別のことだよ』
少しためらいがちに、こんなことを言った。
『なぁ、マイラ、捨て子のジョシュアの生い立ちについて知りたいと思ったことはないのか?』
『そうね、知りたくないと言えば嘘になるわね。でも、知らないほうがいいと思っているわ。叔父さんは、ジョシュアのことをアルベール伯爵の甥っ子じゃないかと思っているみたいよ。わたしは、ジョシュアの身分とか生い立ちとか、どうでもいいわ』
『ふうん、そうなのか?』
そして、目を細めながら、こんな質問をぶつけてきた。
『なぁ、おまえ、アルベール公爵は、本当に、王家に対して謀反を起こそうとしていたと思うか?』
『いいえ。そんなふうには思えないわ。噂では、王様が、奥さんのイヴォンヌを手に入れたくて、アルベール公爵を陥れたって話よ。イヴォンヌは、若い頃、王様に求婚されそうね。でも、それを断って、アルベール公爵と結婚したのよ。そのことを、ずっと恨んでいたんじゃないのかしら。もちろん、本当のことは誰にも分からないけど……』
『俺さ、去年、女子修道院の中で聞いたんだ。枢機卿は、とんでもなく強欲な奴だぜ』
そんな深刻な話をした後、私の頭に花の冠を載せて笑った。
『マイラは、背が高くてキリッとしていてカッコいいな。森の女王みたいだよな』