花咲く森のから騒ぎ
「従者達に、こんな場面を見られたら大変よ。いいから、とっとと、入れ替わってちょうだい」

「何てことを言うのよ! ケイティ、マイラの気持ちも考えてよ!」

「えーっ、何、聞えない!」

 ケイティは鳥に翻弄されて樹の周囲をグルグルと走り続けている。

 ふと、ケイティが真顔になった。

[そうだ。あたしが、王子と入れ替わればいいかもしれない。 それなら誰も困らないじゃない」

 私は、あんぐりと口を開けた。それだけは止めてちょうだい。そんなことをしたら国が滅びちゃうじゃない! 
 
 しかし、ケイティは、気絶している王子の口元をじっと見下ろして顔を近づけようとしている。私とジョシュアがケイティを制止した。
 
「やめて、ケイティ! 早まらないで!」

「嫌だ! おまえだけはやめてくれ!」  

 ジョシュアが、ケイティのことを羽交い絞めにしている。でも、困ったことに、ケイティの決意は固い。首を突き出して、強引に王子に口付けしようとしてウーッと唸っている。
 
『余が王になる! 余が王となる!』

 鳥が、頭上でクルクルと旋回している。せわしなく喋り続けている。バタバタと、騒ぎ続けている。実に姦しい。

『余が王となる!』

 王子にそっくりの声なのよ。微妙なアクセントの癖も完璧に模倣している。王子は、戴冠式のリハーサルをさんざんやったのかもしれない。
 
「うるさいわね! この馬鹿鳥! おだまりなさい!」

 ケイティがキーっと鳥を睨みつけている。すると、鳥はケイティの髪飾りを突付いた。
 
「もうやるしかないのよ。王子を連れ出して気絶させたのよ。こんなのバレたら処刑されるわよ」

「任せてくれ。俺に考えがある。赤い花の季節はまた数日ほど続く。この間にまた元の身体に入れ替わればいい。それなら、マイラも許してくれるよな?」

「どういうこと?」

「細かく説明している暇はない。後で話すから……」

 そして、ジョシュアは王子の上半身を抱きかかえて唇を近づけようとすると、鳥がジョシュアの頭を襲った。
 
 やだ。何なのよ。まるで目隠しでもするようにジョシュアの顔に被さり、ジョシュアを攻撃している。
 
「うわっ!」

ジョシュアがめんくらって王子の顔から手を離して尻餅をついたのだ。

 王子の寝顔に鳥がスッと静かに止まろうとする。

「余が王になる。余を称えよ」

 仰向けになっている王子の顎先に乗って王子の唇を突こうとする。その瞬間、ジョシュアが叫んだ。

「従者が来る! 早く何とかしないと間に合わないぞ!」

森の向こうから、王子の姿を探す従者たちの声が届いた。私はザーッと青褪める。

 どうやら、時間切れのようだ。
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