花咲く森のから騒ぎ
 アンは大切そうに鳥を抱えたまま親しげに小鳥に唇を寄せていくと、鳥がくすぐったそうにピピッと鳴いた。

 鳥は、ずっとアンの顔を見上げている。そして、話しかけるように呟いた。

『ようこそ、アン王女』

 私は、思わず、おおっと目を見開いた。うわ、すごい! 声色が変わっているわ。

 王や王子でもない、また別の誰かの声になっているのよ。穏やかで耳に心地いいダンディな声音だわ。
 
「あなたは、相変わらずとても賢いわ。アンの本当の父親が鳥の化け物だというのなら、アンは鳥の娘。だから、あなたとアンはお友達ですね。仲良くしましょうね」

 風変わりなアンは、頬杖ついてテーブルの上の鳥に視線を合わせている。

「本当に、この鳥がアンのお父さまなら良かったのに……。そしたら、アンも、鳥の娘として自由に生きられますものね」

 寂しげな微笑を浮かべている。しんみりとした横顔に胸が痛くなる。

 なぜ、王女である彼女が、そんなことを言うのか分からない。
 
「おまえは、自由に生きていないというのかい?」

 私は、不思議に思って質問していた。変ね。噂では、アン王女は自由奔放に生きていると聞いているけれど、実際にはそうではないようだ。
 
「エリザベスが、アンのお気に入りの侍女に意地悪をします。ですから、アンにはお友達がおりません」

 アンは、子供特有の率直な眼差しを向けている。

「お兄様は、本当に何も御存知ないのですか? エリザベスは、お兄様が平民の娘に入れ込んでいることを、とっくの昔にご存知ですわよ。なぜ、アンが、わざわざ、ここに来たと思うのですか?」

「田舎で息抜きをするためなのであろう? 違うのか?」

「いいえ。アンは、お兄様の恋人を救うために参りましたのよ」

「えっ! そ、それはどういうことだ! 詳しく話してくれ!」

「エリザベスの刺客が、お兄様の恋人の命を狙っております。事故にみせかけて殺す気ですわ」

「えっ……!」

 激しく動揺した。ドクンっと心臓が激しく脈打ち始めている。
 
 いつもは恐ろしいまでに冷静なジョシュアも動揺して顔色を変えている。

「アン様、いつ、どうやってその謀略をお知りになったのですか? お願いです。もう少し、詳しく説明していただけませんか?」

 我々が真っ青になっているというのに、アンはのんびりと答えている。

「アンは、エリザベスが従者に命じている声を聞いてしまいましたの」

 エリザベスと王子が結婚して三年になるが、王子はエリザベスと寝室を共にしようとはしない。最近は、頻繁に狩りに出かけると言って王宮を抜け出している。

 王子は、商人の娘に一目ぼれして追い回しているらしいと、バルモア家とライバルの商人がエリザベスに耳打ちしたいう。

『王子は、王位に就いた暁にはバルモア家の娘を公式寵姫として宮廷に受け入れたいと思っているようでございます』

『おのれ、許しませんよ!』

 そして、エリザベスの嫉妬心に火がつて、悪魔よりも恐ろしい顔つきで陶器を叩き割ったというのである。

 アンに対してジョシュアが確認している。

「つまり、エリザベス様は恋人を殺せと命令したのですね?」

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