花咲く森のから騒ぎ
「なんとかしてあげたいけど、どうしようもないわ」

 しかし、ジョシュアは茶目っ気たっぷりに言ったのだ。

「今なら出来るぜ。王子の恩赦とやらで、全員、景気良く救ってればいのさ。どんどんやっちまえよ!」

「ジョシュア! あなたって本当に頭がいいわね!」

 そうね。せっかく王子になったんだもの。改革してみようじゃないの。ズンズンと心の中でやる気が漲ってきた。今しか出来ないことをやってやるわ。

「そうよね! 今なら無実の罪で苦しむ人達を救えるわね!」

 窮地に追い込まれたが故に、逆に、テンションが高くなったわ。

「ついでに、この別荘にある銀食器を売り払って貧救院に寄付しようっと! 後は野となれ山となれだわ!」

 そう決した私は、さっそく馬に跨り颯爽と行動に移す事にしたのだった。
 
    ☆


 翌日の早朝、私は王子として監獄に向かったのだが、もちろん、周囲は動揺していた。そりゃそうよね。突飛な行動だものね。

「ウイリアム王子様! なぜ、このようなところに!」

 王族が、こういった場所に来ることは滅多にないんでしょうね。監獄の長官が驚くのも当然だわ。しかし、私は、澄ました顔で朗々と告げていく。

「余は、次期王として政務を果たす為に、こうやって市場や宿屋など隠密に監査しておるのだよ。今すぐ監獄内を案内いたせ!」

 もちろん、私も監獄に来たのは生まれて初めてなんだけど悪臭に鼻がもげそうになっていた。

 人間の尊厳というものが踏みにじられている。家畜小屋よりも不潔だわ。

 劣悪な環境に驚くと同時に哀しくなってきたわ。ここには窓がない。窓を作ると窓税とやらを払わなければならないので作っていない。
 
 王家に払う税、教区の聖職者に払う税、塩の税、橋の通行税、そして、窓にまで税がかかる。

 蝋燭の明かりが欲しい者は、蝋燭代を看守に払わなければならない。もちろん、食費も囚人達が払う。そもそも、貧乏で何も食えないで盗みを働くような者が食事代を払える訳か無い。

 私は従者に命じて食料を運ばせた。

「お、王子様! なにゆえ、卑しい囚人にパンや肉を配るのでございますか!」

 監獄の所長は目を丸くしているけれど知ったことじゃない。口から出任せを言ってやる。

「余は、昨夜、神の啓示を受けたのだ! 哀れな者達に恵みを与えよと神か申されたのだ!」

「ま、まことでございますか!」

「ここの囚人達のリストを余に見せるのだ!」

 当たり前だが、ここには本物の悪党も大勢いる。酒場で呑んだくれ、酔った勢いで人を殺した奴や追い剥ぎの常習犯といった奴らは救ったりしないわ。そういう人は末永く監獄にいてもらわないと困るものね。
 
 貧しさゆえにうっかり盗みを働いた者や、税を納めることが出来ない為に投獄された農夫などは解放してやることにする。私生児を産んだという理由で投獄された女性も出してあげなければならない。

 監獄にはベッドがない。ベッドが欲しいならば看守に金を払って借りるしかない。あちらこちらから、咳き込む声や陰鬱なうなり声が聞こえてくる。ここでは、ちょっとした風邪もあっという間に広がるし、栄養が不足しているからすぐに命を落としてしまうのよ。

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