花咲く森のから騒ぎ
 大柄で顔もズッシリと四角い。全体の雰囲気は知的で物静かだった。死刑執行人の息子達は身分を隠して大学に通っている。畏怖の対象となるからだ。

 以前、ジョシュア(中身はチェルシー)が、人さらいに連れ去られそうになった時に、私は転んで傷を負った。あの時に診察してくれたのがランドールなのだ。

 まさか、こんな形て再会するとは……。

「議会の承認を得るには王子は王都に戻らねばなりません。早馬を使っても間に合いませんよ」

 哀れな少年に恩赦を与える事は、たいして難しくない。議会も簡単に書類にサインしてくれるような気がするのだが……。生憎、時間がないようである。

「い、いや、しかし、余は、明日の早朝に行われる死刑を止めたいのじゃ。何とか執行しないで待っていてくれないだろうか」

「恐れながら申し上げます。無理なことでございます。わたくしは、規則通りに日時を守って仕事をする義務があります。どんなに理不尽なことであろうともやってまいりました。わたくしの父も祖父も、ずっとそうやって生きてきたのでございます」

 そう告げるランドールの表情は哀しげに揺らめいている。

 彼は、感情をほとんど見せないのだが、多分、この人も、ジョナサンを処刑したくないのね。

 でも、執行人は法を厳守しなければならない。ランドールがゆっくりと告げた。

「司法長官は、あの少年、規則通りに厳罰に処することを願っております。見せしめにしたいのでしょう」

「そうだな。密輸は重罪となっておるからな」
 
 王子だという立場を忘れたまま、私は憤っていた。

「悪いのはジョナサンではないのだ。あんな悪法など無くなれば良いのだが……」

「王子様、本気でそうお考えになるなら、あなたが王位についた際には、ぜひとも改善なさってくださいまし。お願い致します。しかし、今回の処刑に関しては決まったことでございます」

 ランドールはそう言って居間の椅子から立ち上がろうとした。

「王子様、わたくしは、そろそろ処刑の準備にかからなければなりません。これから、地下室にて部下たちに細かい指示をいたしますので……」

「ま、ま、待ってくれーー!」

 私は、何とかこの状況を打開したかった。追いすがるように言う。

「ランドール! 諦めてはならぬぞ。過去に死刑を引き伸ばした例はないのか! も、もしも、そういったことがあったのならば余に教えてくれないか!」

「わたくし知る限り、過去に同じように死刑を引き伸ばそうとした貴人がおられました。その方は、もうこの世にはおられません。賢い方でした。その人は、無実の罪をきせられた異教徒の親子を救おうとしておられました……」

 懐かしそうに、どこか遠くを見つめながらランドールが西の空を指差している。

「その方は、ある日、鳥になってしまったのです」

「お、おい、おまえ、その方とは一体誰のことなのだ?」

 彼の言っている事が分からなかった。

「な、なんじゃ! ハッキリと名を申せ!」

「もちろん、それは前領主のアルベール公爵様でございます。あの方は、わたくしに言ったのです。死んでしまった者のことは処刑できないと……。だから先に殺せと告げられました」

 私は、ポカンと口を開けていく。な、なんなの? どういうこと?

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