花咲く森のから騒ぎ
「ここだけの秘密でございます。実は、処刑の数日前、疫病で死んだことにしたのでございます。その頃、天然痘が流行っていましたので、突然の死に関して誰も疑う者はおりませんでした。今から二十年前、この辺りは死体で溢れていましたから、死刑囚の親子は棺桶に入れて外へと運び出すことが出来たのです。異教徒であることが幸いしました。その異教徒は海辺に遺体を流す習慣がありましたので、親子を船に乗せて国外へと逃がすことが出来たのです」
「ほう、なんと! それはすごいな……」
私は、喉元をゴクンと鳴らした。上ずった声で尋ねた。
「そ、それを、アルベール公爵が考えたと申すのか?」
「はい、そうです。無実の親子を救うことに成功したのでございます。しかし、今回は、そういう訳にもいきません」
「むむっ、それはなぜなのだ?」
「あの少年は異教徒でもありません。それに、今にも死にそうな様子でもありません。仮に、急病による死を装うことに成功したとしても、棺桶は共同墓地に運ばれていきます。司教の部下たちは、棺桶の板を外して薪にしているそうですから、生きた少年を中に入れたなら、すぐに見つかってしまいます」
「……うっ。では、一体、どうすればいいのだ!」
「王子のお知恵を拝借したいと思っております」
どうしよう! 私には無理だ。
「余は何も浮かばぬ。おまえが何とかしてくれ。頼む! あと数日、引き伸ばしてくれたならいいのだ。議会に書類を送るまでの時間稼ぎをしてはくれないか! 死刑執行が中止された例は他にないのか! 例えば、嵐や雷のせいで延期されたとか、そういう出来事が過去に何かなかったのか!」
「……特例も、もちろんございました」
ランドールが、低い声で静かに告げた。
「わたくしの祖父から聞いた話でございます。祖父が、血を吐いて倒れた日は行われませんでした。その翌日、祖父は死んだそうです。結局、処刑は、祖父の葬儀の翌日、跡継ぎである父が行ったと聞いております」
「いや、しかし、おまえが死ぬ訳にはいかないぞ」
「もちろんでございます。わたくしの息子は王都の大学に通っておりま。まだ執行人として未熟でございます。わたくしもまだ死にたくはありません」
ランドールの眼差しが変わっている。淡々とした表情の中に決意の光が宿ったように見えるわ。
「死刑執行人というのは希少な存在なのでございます。わたくしの代わりは、この町に誰もいないのです。むろん、隣町まで行けば他の執行人がおりますが、その者が代理を勤めるにも王都の役人による手続きが必要です」
「あっ……」
時間稼ぎ。
そうだわ! ほんの少し、このランドール自身が倒れて動けない状況を作り出せばいいのだ。
「ランドール、すまないが、しばらくの間、病気になってはくれないか? 仮病でもいいのだ。動けないフリをしてくれないだろうか?」
「うちの使用人や部下達は薬事に詳しいのです。仮病は見破られてしまいます。ですから、生半可なことは出来ません」
ランドールは引き出しの中から小さな小瓶を取り出すと覚悟を決めたように呟いた。
「盲目になる毒でございます。毒蜘蛛から抽出したものです。数日間、目が見えなくなります。運悪く蜘蛛に刺されて倒れたことにしましょう」
「ランドール! 本当にいいのか!」
「ほう、なんと! それはすごいな……」
私は、喉元をゴクンと鳴らした。上ずった声で尋ねた。
「そ、それを、アルベール公爵が考えたと申すのか?」
「はい、そうです。無実の親子を救うことに成功したのでございます。しかし、今回は、そういう訳にもいきません」
「むむっ、それはなぜなのだ?」
「あの少年は異教徒でもありません。それに、今にも死にそうな様子でもありません。仮に、急病による死を装うことに成功したとしても、棺桶は共同墓地に運ばれていきます。司教の部下たちは、棺桶の板を外して薪にしているそうですから、生きた少年を中に入れたなら、すぐに見つかってしまいます」
「……うっ。では、一体、どうすればいいのだ!」
「王子のお知恵を拝借したいと思っております」
どうしよう! 私には無理だ。
「余は何も浮かばぬ。おまえが何とかしてくれ。頼む! あと数日、引き伸ばしてくれたならいいのだ。議会に書類を送るまでの時間稼ぎをしてはくれないか! 死刑執行が中止された例は他にないのか! 例えば、嵐や雷のせいで延期されたとか、そういう出来事が過去に何かなかったのか!」
「……特例も、もちろんございました」
ランドールが、低い声で静かに告げた。
「わたくしの祖父から聞いた話でございます。祖父が、血を吐いて倒れた日は行われませんでした。その翌日、祖父は死んだそうです。結局、処刑は、祖父の葬儀の翌日、跡継ぎである父が行ったと聞いております」
「いや、しかし、おまえが死ぬ訳にはいかないぞ」
「もちろんでございます。わたくしの息子は王都の大学に通っておりま。まだ執行人として未熟でございます。わたくしもまだ死にたくはありません」
ランドールの眼差しが変わっている。淡々とした表情の中に決意の光が宿ったように見えるわ。
「死刑執行人というのは希少な存在なのでございます。わたくしの代わりは、この町に誰もいないのです。むろん、隣町まで行けば他の執行人がおりますが、その者が代理を勤めるにも王都の役人による手続きが必要です」
「あっ……」
時間稼ぎ。
そうだわ! ほんの少し、このランドール自身が倒れて動けない状況を作り出せばいいのだ。
「ランドール、すまないが、しばらくの間、病気になってはくれないか? 仮病でもいいのだ。動けないフリをしてくれないだろうか?」
「うちの使用人や部下達は薬事に詳しいのです。仮病は見破られてしまいます。ですから、生半可なことは出来ません」
ランドールは引き出しの中から小さな小瓶を取り出すと覚悟を決めたように呟いた。
「盲目になる毒でございます。毒蜘蛛から抽出したものです。数日間、目が見えなくなります。運悪く蜘蛛に刺されて倒れたことにしましょう」
「ランドール! 本当にいいのか!」