花咲く森のから騒ぎ
「いや、ハンス、おまえ達だけでいい」
大勢の人間に応援を求めたなら、敵に悟られるという大きなリスクを背負うことになる。
ジョシュアの予想ではこうだった。そんなに大人数の刺客は現れない。せいぜい、二、三人だろうと予測している。
しかし、不思議なことに尾行してきた者など一人もいないのだ。
ずーっと待っているのに、誰も襲わないってどういうことなのよ。もしかして、アンの情報は嘘だったの?
多感なお年頃なんだものね。もしかしたら、ただの妄想ってやつだったのかもしれないわ。やれやれ、なんて人騒がせな姫さんなのかしら。
アンとたジョシュアは、馬車から降りてドレスの裾をつまみあげた格好で道に立っている。一本道を阻む樫の木を見下ろしている。
急に道路で立ち往生して困り果てている様な芝居をしているのである。何も知らない御者は、せっせと馬車の整備をしている。
「ハンス、そなたは、少し離れた場所にいてくれ。余は、あちらに向かう」
いつまでも、アン様を足止めする訳にもいかないわね。
そう思った私は、小屋から出て馬車を阻む倒木を片付ける手伝いでもしようかと思って街道へと近付いていった、しかし、その時、異変が起こったのである。
それまで、おとなしくアンの肩に乗っていた七色の鳥が不意にサーッと飛び立ち始めた。
「あっ、待って! あなたは、どこに行くつもりなのですか!」
アンは、蝶々を追いかける少女のように両手を広げた。そのまま、よたよたとした足取りで駆けている。アンは、馬車から離れて農道の左側の林の奥へと入っていく。
あら、嫌だ。迷子になったらどうするのよ。
「アン様、いけません! 迷子になりますよ!」
ジョシュアがアンを引きとめようとするが、アンは鳥を追うことに夢中なのね。潅木の中へとどんどん押し入っていく。ジョシュアーは馬車から降りて駆け出そうとした。
しかし、その直後のことだった。ジョシュアの背後から御者が口を塞いだ。
「貴様、何をする!」
アンの護衛の士官の若者が咄嗟に止めようとした。しかし、すでに遅かった。
御者は、士官に向かってナイフを素早く投げていたのである。その腕は確かだった。士官は胸を押さえて倒れ込んでいく。
「うっ……」
もうすでに、ジョシュアは御者に薬をかがされて気を失っている。
傷を負いながらもジョシュアを助けようとした士官は、御者が投げた短刀によって肩を刺され、今度こそ、彼はその場から動けなくなった。
御者は、何の感情も顔に浮かべることなく、淡々と馬車と馬を接続していた馬具を取り外している。
やばいわ。なんということなの! おとなしそうに俯いて手綱を握っていたあいつが、刺客だったなんて。
多分、チェルシーが独りになる瞬間をずっと見計らっていたのだろう。だから、アン王女が、そこからいなくなるタイミングを待っていたんだわ。
このままじゃ連れ去られてどこかで殺されてしまう! ジョシュアを助けなくちゃと焦りながら、私は夢中になって斜面を駆け出していく。
林の間から御者の背中を狙って矢を放ったつもりだった。しかし、手元が狂った。しまった! 大きく外れたではないか!
「待て! 許さんぞ!」
大勢の人間に応援を求めたなら、敵に悟られるという大きなリスクを背負うことになる。
ジョシュアの予想ではこうだった。そんなに大人数の刺客は現れない。せいぜい、二、三人だろうと予測している。
しかし、不思議なことに尾行してきた者など一人もいないのだ。
ずーっと待っているのに、誰も襲わないってどういうことなのよ。もしかして、アンの情報は嘘だったの?
多感なお年頃なんだものね。もしかしたら、ただの妄想ってやつだったのかもしれないわ。やれやれ、なんて人騒がせな姫さんなのかしら。
アンとたジョシュアは、馬車から降りてドレスの裾をつまみあげた格好で道に立っている。一本道を阻む樫の木を見下ろしている。
急に道路で立ち往生して困り果てている様な芝居をしているのである。何も知らない御者は、せっせと馬車の整備をしている。
「ハンス、そなたは、少し離れた場所にいてくれ。余は、あちらに向かう」
いつまでも、アン様を足止めする訳にもいかないわね。
そう思った私は、小屋から出て馬車を阻む倒木を片付ける手伝いでもしようかと思って街道へと近付いていった、しかし、その時、異変が起こったのである。
それまで、おとなしくアンの肩に乗っていた七色の鳥が不意にサーッと飛び立ち始めた。
「あっ、待って! あなたは、どこに行くつもりなのですか!」
アンは、蝶々を追いかける少女のように両手を広げた。そのまま、よたよたとした足取りで駆けている。アンは、馬車から離れて農道の左側の林の奥へと入っていく。
あら、嫌だ。迷子になったらどうするのよ。
「アン様、いけません! 迷子になりますよ!」
ジョシュアがアンを引きとめようとするが、アンは鳥を追うことに夢中なのね。潅木の中へとどんどん押し入っていく。ジョシュアーは馬車から降りて駆け出そうとした。
しかし、その直後のことだった。ジョシュアの背後から御者が口を塞いだ。
「貴様、何をする!」
アンの護衛の士官の若者が咄嗟に止めようとした。しかし、すでに遅かった。
御者は、士官に向かってナイフを素早く投げていたのである。その腕は確かだった。士官は胸を押さえて倒れ込んでいく。
「うっ……」
もうすでに、ジョシュアは御者に薬をかがされて気を失っている。
傷を負いながらもジョシュアを助けようとした士官は、御者が投げた短刀によって肩を刺され、今度こそ、彼はその場から動けなくなった。
御者は、何の感情も顔に浮かべることなく、淡々と馬車と馬を接続していた馬具を取り外している。
やばいわ。なんということなの! おとなしそうに俯いて手綱を握っていたあいつが、刺客だったなんて。
多分、チェルシーが独りになる瞬間をずっと見計らっていたのだろう。だから、アン王女が、そこからいなくなるタイミングを待っていたんだわ。
このままじゃ連れ去られてどこかで殺されてしまう! ジョシュアを助けなくちゃと焦りながら、私は夢中になって斜面を駆け出していく。
林の間から御者の背中を狙って矢を放ったつもりだった。しかし、手元が狂った。しまった! 大きく外れたではないか!
「待て! 許さんぞ!」