花咲く森のから騒ぎ
 私は、気絶しているジョシュアを介抱していく。気を失っているだけならいいけれど、何か毒でも含まされたのではないかと心配だわ。
 
 ハラハラして思わず涙ぐみそうになる。
 
「ねぇ、お願いよ。返事をして! ねぇ、ジョシュア! 目を覚まして!」

 ペチペチと頬を軽く叩くが無反応。コルセットがきつくて失神する娘が多いので、貴婦人は、日々、気付け薬を持参している。

 気が付いてくれるかしら?

 私は、それを嗅がせてから軽く頬を叩くと、ジョシュアは、やがて、うっすらと目を開けてくれた。まだ意識は朦朧としているらしい。

「うっ……」

 微かな呻き声が漏れた。ああ、良かった。まだ視界はぼんやりしているようだけれども、意識はしっかりしているようだ。私は耳元で囁いた。
 
「目が覚めたのね……、ジョ、いや、チェルシー、そのまま、しばらく木陰で休んでいるのよ」

 今、私は王子でジョシュアは美少女のチェルシーなんだものね。あと少しの間、芝居を続けなくてはいけない。

 私が、お姫様抱っこの状態でチェルシーの身体を運んでいったのだ。そして、清潔で柔らかな芝の上に寝かせて、どこか怪我はしていないかを確認していく。
 
 どうやら、チェルシーの身体は無事なようね。
 
「ねぇ、そこのあなた大丈夫なのですか? お水をもっと飲みますか?」

 アンは、もうひとりの怪我人のことを気にしていた。ハンサムで若い士官の顔が痛みに歪んでいるものだから、アンは、不安そうに彼に水を飲ませていた。

「斬られたようだな」

 そう言ったのは元密猟者のハンス、彼が、士官の脇腹に布を押し当てながら言う。

「応急処置はしておいたが、早く、医者に縫ってもらった方がいいぞ」

「お兄様、大変ですわ。この護衛の士官を早く助けなければ……」

 ハラハラして涙目になっているアンを士官の若者を仰ぎ見ている。

「ア、アン様、僕のことならば心配ありません。こ。こんなものは、ほんの、かすり傷ですよ」

 彼は健気にそう答えたが、見たところ、思ったよりも護衛の若い士官の傷は深いわ。

 ハンスは医者を連れてくると請け負って馬に乗ると立ち去った。

 私は、士官のそばにしゃがみこむと、その顔を覗き込む。

「おおっ、何ということなのだ。顔色が悪いぞ。ひどく痛むであろうな。余の妹のためにすまなかった。おそらく、この近くに余の従者達がいるはずである。早く、彼等を探して呼び寄せるとしよう」

 すると、そう言った直後のことだった。ちょうどいい感じで助っ人がやってきたのである。

「王子!」

「アン様! 御無事ですか!」

 それは、倒木を退ける為に村人を呼びに出掛けたアンの護衛官と王子の従者達だった。
 
 異変に気付いた彼等は慌てふためいてる。一国の王女の馬車の御者が暗殺者だったのだから、皆が驚くのも無理はないわね。

 私は、出来る限り厳しい顔つきで言う。

「この者を見よ。とんでもない悪人であるぞ!」

 刺客は気絶しているし縄で縛り上げられているので静かだ。仮に目覚めたところで、どこにも逃げられやしない。

「我が妹は暴徒によって襲われたのだ。おまえ達、王都にてこの男のことをみっちりと調べるのだぞ。王家に対する謀反である! 何者の指図によるものか調べ上げねばなるまい!」

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