花咲く森のから騒ぎ
 もちろん、私は知ってるわ。本当は、こいつは、アンじゃなくてチェルシーを狙っていたのよ。アン自身も、自分が狙われたと主張してくれると約束してくれていたのである。

『うふふ。楽しみですわね。実行犯が、エリザベスの名を告げたならば、お兄様は、即座にあの女を罰して離縁すればよろしいのですわ』

 エリザベスと大司教を失墜させる。それこそが、ジョシュアの狙いなんだもの。

 だから、こう言っておいた。

『むろん、余は、厳しく罰するつもりである』

 こうして、アンのおかげで上手くいった。刺客をおびき寄せるための作戦も成功して実行犯が捕まったのだ。さて、この後のことは、このアンに任せるとして……。

 とりあえず、私は皆に向って告げた。

「二度とこのようなことが起こらぬよう、しっかりと我が妹の護衛を頼むぞ! 協力してくれたハンス達に報奨金を渡しておいてくれ。ハンス、御苦労であった」

 ということで、まず、ひとつ片付いた!
 
 しかし、もう時間がない。私は、アンをここから帰らせる為にこう言った。
 
「さぁ、今すぐ、怪我人を連れて王都に戻りなさい。ここは田舎だ。宮廷の侍医に診てもらう方がいい」

果たして、この刺客は、この犯行を依頼した黒幕が誰なのかを素直に吐くのだろうか。

 とにかく、今回は、チェルシーを無事に守りきることが出来て良かった。
 
 だけど、もっと大きな問題が残っている。王子の意識と身体が元に戻ったら、我々全員が罰せられることになるかもしれない。私が王子として暮らすという選択肢は無い。かといって、ジョシュアが王子になる訳にもいかない。

 どうしたものかと悩んているとアンが気遣うように言った。

「お兄様もお疲れのようですわね。今回のことはお兄様のせいではありませんわ。悪いのはエリザベスです。アンは、先に王都に戻ります。ごきげんよう。法務官に引き渡して、この悪人をしっかり裁かせますわね。でも、残念ですわ。ダビデがおりません」

 結局、どっぷり日が暮れた頃、アンは、王都へと戻っていくことになったのである。アンは空っぽになった鳥篭を大切そうに抱えている。

大切なオモチャを失ったような表情は、今まで見た中で一番幼く見える。

 アンはダビデのことが好きだったのよね。

「案ずるなあの鳥は、また帰って来るであろう」

「でも、鳥は、自由に空をはばたくのが一番なのかもしれませんわね……」

 アンが泣き笑いの表情を浮かべている。可愛い子だわ……。ちょっと風変わりな女の子だけど、この赤毛の女の子には奇妙な魅力があった。

「もしも、あの鳥がみつかったなら、必ず、アンのもとに届けさせるからな」

 ああ、刻々と時間が過ぎていく。もうじき日が暮れる。早く、チェルシー達のいる森に戻らねばならない。
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