花咲く森のから騒ぎ
「いいえ、事件など起こっておりませんわ。もちろん、ちゃんと帰るつもりだったのですが、生憎、街へと続く橋が壊れていて通れなくなっていたのです。だから、仕方なく、この村に戻ることにしたのです。それで、お兄様の行方を捜したところ、この森に着いたのですわ。えっ、何ですの!」
アンの顔に頭上から舞い落ちてきた枯葉が張り付いた。アンは、やだーと言いながら葉っぱを手にしている。
「うっ……。ん……」
不意に、横たわっている王子の首筋がヒクっと震えた。
日が傾いたせいだろうか。周辺の空気がひんやりしている。夜風が皮膚を刺激したのかもしれない。
運の悪いことに、王子が目を覚ましかけているではないか。このタイミングで目を覚まされると困るのよ! もうちょっと待って欲しかった。よりにもよって、ここで、王子が意識を取り戻すと、こちらは非常に困ってしまうのだ。
こうなったら、また、わたしが王子に戻るしかないわね!
そう思って振り向いた時、また、サーッと風が吹いた。それは、かなり強い風だった。そのせいなのだろうか。赤い花がいっせいに舞い散っている。
どんどん降り注ぐ赤い花びら。もうすぐ、花の季節は終わる。最後の一枚が地面に落ちたなら、もう、おしまいだ。王子は、今、私の膝を枕にして眠っている。
その王子の頬に手を伸ばそうとする。すると、鳥がヒステリックに叫んだ。
『余が王になる! 余が王になる!』
ひらひらと舞い散っている。幻想的な光景の中で。鳥が、警鐘を鳴らすかのように鳴き続けていた。
「あら、あれはアンの鳥ですわ! いつのまにここに?」
アンが、その鳥を捕まえようと両手を伸ばしている。しかし、鳥は、アンを翻弄するように、枝から急降下して地面に横たわっている王子の顎先に止まっている。
『誰も犠牲にしない』
それは、これまでとは違う思い口調だった。何、どういうこと?
私は、ただ、呆然とその様子を見ていた。
ヒラリ。最後の花が落ちようとしている。ツン、ツン。鳥が王子の唇を刺激している。
『余が王となる!』
そう告げてから、王子の分厚い唇をこじ開けていた。すると、王子は、その感触に気付いたのか、ビクッとしたように目を覚ましたのだ。ああ! 目覚めちゃう! もう、何もかもおしまいだわ……。
アンや従者達の前で入れ替わることも出来ない。それに、赤い花は、もう、すべて散ってしまった。アンは沢山のフリルのついたピンク色のドレスの裾を揺らして王子のもとへと駆けつける。
「お兄様!」
久しぶりに目覚めた王子の様子がおかしい。まるで、魂が宙を漂っているかのような曖昧な表情を浮かべている。死者の国から戻ったかのように空ろな目をしている。
「お兄様! どうなさったのですか?」
「……ここはどこだ?」
王子は、怪訝な表情で周囲を見渡している。前髪についている枯れ草を落としながら、彼は言った。
「そこにいるのは、アン王女だな。しかし、それ以外の者達のことが分からぬ」
そして、起き上がりながら私に向かって告げたのよ。
「そこの者。余は、おまえを初めて見るぞ。おまえは何者なのか申してみよ」
「えっ……?」
私は驚いて王子に尋ねていく。
アンの顔に頭上から舞い落ちてきた枯葉が張り付いた。アンは、やだーと言いながら葉っぱを手にしている。
「うっ……。ん……」
不意に、横たわっている王子の首筋がヒクっと震えた。
日が傾いたせいだろうか。周辺の空気がひんやりしている。夜風が皮膚を刺激したのかもしれない。
運の悪いことに、王子が目を覚ましかけているではないか。このタイミングで目を覚まされると困るのよ! もうちょっと待って欲しかった。よりにもよって、ここで、王子が意識を取り戻すと、こちらは非常に困ってしまうのだ。
こうなったら、また、わたしが王子に戻るしかないわね!
そう思って振り向いた時、また、サーッと風が吹いた。それは、かなり強い風だった。そのせいなのだろうか。赤い花がいっせいに舞い散っている。
どんどん降り注ぐ赤い花びら。もうすぐ、花の季節は終わる。最後の一枚が地面に落ちたなら、もう、おしまいだ。王子は、今、私の膝を枕にして眠っている。
その王子の頬に手を伸ばそうとする。すると、鳥がヒステリックに叫んだ。
『余が王になる! 余が王になる!』
ひらひらと舞い散っている。幻想的な光景の中で。鳥が、警鐘を鳴らすかのように鳴き続けていた。
「あら、あれはアンの鳥ですわ! いつのまにここに?」
アンが、その鳥を捕まえようと両手を伸ばしている。しかし、鳥は、アンを翻弄するように、枝から急降下して地面に横たわっている王子の顎先に止まっている。
『誰も犠牲にしない』
それは、これまでとは違う思い口調だった。何、どういうこと?
私は、ただ、呆然とその様子を見ていた。
ヒラリ。最後の花が落ちようとしている。ツン、ツン。鳥が王子の唇を刺激している。
『余が王となる!』
そう告げてから、王子の分厚い唇をこじ開けていた。すると、王子は、その感触に気付いたのか、ビクッとしたように目を覚ましたのだ。ああ! 目覚めちゃう! もう、何もかもおしまいだわ……。
アンや従者達の前で入れ替わることも出来ない。それに、赤い花は、もう、すべて散ってしまった。アンは沢山のフリルのついたピンク色のドレスの裾を揺らして王子のもとへと駆けつける。
「お兄様!」
久しぶりに目覚めた王子の様子がおかしい。まるで、魂が宙を漂っているかのような曖昧な表情を浮かべている。死者の国から戻ったかのように空ろな目をしている。
「お兄様! どうなさったのですか?」
「……ここはどこだ?」
王子は、怪訝な表情で周囲を見渡している。前髪についている枯れ草を落としながら、彼は言った。
「そこにいるのは、アン王女だな。しかし、それ以外の者達のことが分からぬ」
そして、起き上がりながら私に向かって告げたのよ。
「そこの者。余は、おまえを初めて見るぞ。おまえは何者なのか申してみよ」
「えっ……?」
私は驚いて王子に尋ねていく。