花咲く森のから騒ぎ
「おまえたち、ダビデを捕まえてくれたのだな。アンから聞いたぞ。余は、チェルシーに何かと迷惑をかけたようだな。余は、ここをバルモア家の者達に与えようと思う。バルモア家の長男であるジョシュア、そなたが受け取るがいい。余はチェルシーを愛していたようだが覚えておらぬ。まことにすまぬ」

 王子に深々と謝罪されて、こちらが恐縮していた。

「あの、でも、ここはアン様が受け継ぐのでは……」

「それに関しては問題ない。余が、アンから譲り受けておる。そなた達も知っているように、暗殺者どものせいでチェルシーも命を落としかけたのだ。すべては余が至らぬせいである。それに、余の愛人というレッテルを貼られておるのだ。これから、何かと不便をかけることであろう」

 要するに慰謝料として譲渡するということのようである。

 そして、感慨深げにこう言ったのである。

「今年の夏は、いつもより賑やかだったな赤い花は、すべて枯れたな。鳥の季節は終わったのだな……」

 居間に飾られた美術品や絵画を、ぐるりと見渡してから私に向かって不意に笑いかけてきた。王子は唇の左端を歪めている。

「マイラ。おまえも欲しいものを言うが良い。ダビデを捕まえてくれた礼をするぞ」 

「あのっ、王子は覚えておられないかもしれませんが、今後も、塩の密輸で捕まってしまった少年や、魔女の烙印を押されてしまった者達を救ってあげて欲しいのです」

「余は、何も覚えてはおらぬが心配するではないぞ。余はこれからも弱き者を援助するつもりだ。悪の根は、すべて絶って良い国を作るつもりである」

 不思議なほどにピシャリと響いたのだ。何とも力強い声だった。

 嗚呼、なんて、神々しいのだろうか……。

 身体全身から、真の知性と気品が溢れている。

 その、崇高なオーラや独特の雰囲気がアルベール公爵の肖像画の雰囲気に似ている。しかも、アルベール公爵の肖像画の前に立つ王子はアルベール公爵と同じポーズで立っている。

 本人は気付いていないと思うけれど、人には、それぞれ癖がある。アルベール公爵は、若干、首を右に傾ける癖がある。

 困ったわ。もどかしさが喉元を締め付けている。

 ああ、どう切り出せばいいのだろう。

 正面から聞く勇気が私にはない。私は、もどかしい気持ちで王子の顔を見つめるしかなかった。

「あの、王子、少しよろしいですか?」

 その時、ジョシュアが掠れた声で語りだした。

「唐突に、こんなことを言うのは恐れ入りますが、ど、どうぞ聞いてください」

 緊張しているのだろうか。ジョシュアの声が微かに震えている。王子は、そんなジョシュアを穏やかに見つめ返している。

「何でも申すがいい」

「お尋ねいたします。アルベール公爵はさぞ無念だったと思います。だけど、俺は、こう思うのです。アルベール公爵は、昔、この辺りを治めていました。ですから、あの森のこともすべて熟知しています。それに、憲兵達が来る事をあらかじる知っていました。だから、甥を先に逃がしたのです」

「なんだね。そちは何が言いたい?」

「いえ。ほんの戯言でございます」

 ジュシュアは、王子の顔をまっすぐに見上げて喋り続けている。

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