花咲く森のから騒ぎ
 ダビデの中に生きている人を愛してあげて欲しいのだ。もし、あれが本物の王子ならば大切にしなければ可哀想だ。すると、王子は静かに頷いた。

「余も、あの鳥のことは決して嫌っておらぬぞ。あれはあれで実に面白い奴だからな」

 彼は、懐かしそうに館全体を見返しながら告げている。
  
「しかし、もう、あの鳥はチェスには興味をなくしたようだな。その代わり、バレエやオペラに興味があるようだ」

 少し茶目っけのある微笑を口元に漂わせていた。まるで共犯者のように、こちらを見つめている。その表情を見て確信した。彼は、鳥になって、私達をサポートしてくれたのよ。

 最愛の妻を王族に盗られた男は、その悲劇を繰り返してはいけないと思ったのかもしれない。
 
「皆の者、余に会いたいと思ったならば、いつでも城に遊びに来るが良いぞ」

 そして、ウイリアム王子は居間に飾ってあったイヴォンヌ夫人の肖像画へと視線を移したのだ。優しい眼差しを向けて微笑んでいる。

 なんていえばいいのかしら。長い歳月を経て、ようやく巡り合った恋人を見つめるような、そんな切ない目をしている。
 
「美しい婦人だな……。おそらく世界で一番美しい婦人であろうな」

 栗色の髪。百合よりも白い肌。子鹿のような聡明な瞳。誰よりも愛しいとでも言いたげに見つめ続けている。王子は、長い間、その肖像画を眺めていたが、やがて、凛とした足取りで馬車に乗り込んでいった。

「さぁ、名残惜しいが、そろそろ帰るとするか。ではまたな……。まことに楽しい休暇であったぞ」

 今まで見せたことのないような知的な顔つきで、ウイリアム王子がこちらを見返す。
ああ、本当のことは分からない。

 アルベール公爵が王子となったのか……。それとも、王子が頭を打ってまともになったのか……。わたしには、まるで分からない。でも、きっと、これで良かったのよ。

 こうして、不思議な鳥と共に王子は去っていったのよ。王子の変化の真相に関しては分からない。彼は果たして、アルベール伯爵なのだろうか? それとも違うのか?

 いずれにしても、私達はお咎めなしの状態で、しかも、これからは王族の援助を受ける身分となったのだ。

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