花咲く森のから騒ぎ
 叔母は窓から手を振って去っていく。叔母達がいなくなった後、私は、叔母が手土産として持って来た小麦やジャガイモや塩や砂糖の入った箱を覗き込む。 

 屈強な御者が、様々な食料の詰まった木箱を小屋の前に置いてくれたのである。

 叔母は、こうやって定期的に食料を差し入れしてくれる。おばぁちちゃんにお金も渡してくれるおがて、こちらとしては助かっている。

「おい、こいつ、おまえの親戚か?」

 ジョシュアが屋根裏から降りてきた。

「ねぇ、マイラ、この子、誰なの?」

 チェルシーの問いに私は答えた。

「ジョシュアよ。仲良くしてあげてね。しばらく、うちで面倒を見てあげることになったの」

 内気なチェルシーがジョシュアに笑いかけると、ジョシュアもニッと笑った。
 
 その日の午後。私は一人で人里へと向かった。この小屋から村のメインストリートまで徒歩で二十分くらいかかる。お金が入ったので、腰痛に悩んでいるおばぁちゃんの為に煎じ薬を買うつもりだった。
 
 私が村の小さな薬局にいた頃。
 
 おばぁちゃんは薪割りをしており、うっかり、幼い子供達から目を離してしまっていた。そして、チェルシー達が姿を消したのだ。
 
「うっそー、おばぁちゃん、二人とも子供だよ。そんなに遠くに行く訳がないわよ」
 
 私も、真っ青になってを探したのにみつからなかった。一晩が過ぎた。早朝になって、おばぁちゃんが気付いた。

「あそこかもしれないね。マイラ、あんたはここにいなさい」

 私達が暮らす小屋から少し離れたところに赤の森がある。

 普段は、密猟者がウロウロしていたが、今年は誰も近付かない。二人はそこにいた。赤い花がヒラヒラと舞い落ちる一角に、チェルシーとジョシュアが寄り添うように座り込んでいたという。おばぁちゃんと目が合うと、チェルシーが叫んだそうなのだ。

「クソばばぁ、おせーぞ。僕たちは腹ペコだ。なんか食わせろよ!」

 チェルシーの言葉遣いが豹変していたことに、おばあちゃんは驚いた。チェルシーはジョシュアの手を握ったまま勝気な声で言ったのだ。
 
「僕がこいつを守ってやったぜ。感謝しろよ、クソばばぁ」

 二人は、一晩、互いに励まし合って過ごしたというのである。ジョシュアの髪に赤い花が飾られていた。森の中でよほどショックなことが起きたようだ。帰宅してからもジョシュアは顔を覆って泣き続けている。しかし、チェルシーはやけに元気だ。

「マイラ、聞いてくれよ。日没寸前に鳥が木の枝に集まってきたぜ。鳥が、いっぱい襲ってきたけど僕は男だから泣かなかったよ!」

 可憐なチェルシーの口から出た台詞とは思えなかった。その顔は、、やんちゃ小僧のように生き生きと輝いている。

「なぁ、マイラ、水くれよ]

「チェルシー、どうしちゃったのよ。なんで、そんな乱暴な話し方をするの?」

 従妹のチェルシーの人格が崩壊しているので怖くなってきた。

 とにかく、こんな有り様なので、私とおばぁちゃんは二人の扱いに戸惑っていたのだが、どうすることも出来なかった。そうこうするうちに、叔母が帰国したのだ。

「チェルシー、さぁ、帰りましょうね」

 後日、チェルシーを迎えに来た叔母に対して、ツンと横を向いた。

「言っとくけど、チェルシーはこいつだぜ」

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