花咲く森のから騒ぎ
 チェルシーは叔母の前にジョシュアを押し出した。そんな奇怪な態度に叔母達は困惑していた。

 叔父も、この時ばかりは小屋の中まで入ってきて、我が家でお茶を飲みながら考え込んだ。叔父の目から見ても娘は豹変している。

 とういうか、ジョシュアとは何者なのかと問いかけて来た。

「なんですと……、この少年は身元不明なのですか」

 叔父は宮廷貴族と顔を合わせる機会が多いので世情に詳しい。そこで、ふと、ある事に気付いたらしい。

「もしかすると、このジョシュアと名付けられた少年は、アルベール公爵様の甥っ子かもしれないぞ。役人達が少年を探しているという噂を埠頭近くの宿で耳にしたからな」

「あら、大変! 捕まったら、この子も反逆罪に問われるのかしら?」

 心優しい叔母は、気の毒そうにジョシュアを見つめ手溜め息を漏らしていた。

「謀反を起こした一族は、一生、王によって監視されると聞いているわ。場合によっては、異国へ追放されたりすることもあるみたいよ」

 報復して来ないように親族の財産も没収するというのである。

「こんな小さな子にまで厳しいお咎めがあるとは思えぬが、用心に越したことはないな。この少年は知り合いの修道院に入れて匿ってもらうことにしよう」

 叔父がジョシュア顔を覗き込むと、ジョシュアはビクッとしたように肩を揺らして訴えた。

「パパ! あたしはチェルシーよ! なんで、こんな簡単なことが分からないの!!」

 すると、隣にいたチェルシーが憤然とした顔つきで言い始めたのである。

「そうだよ。こいつを親から引き離すなんて可哀想だ。一緒に暮らせるようにしろよ」

「ママ! あたしを見捨てないで! お願いよ」

 ジョシュアが情けない顔になり叔母の腕にすがりつく。

「ママ、あたしはジョシュアじゃないのよ。チェルシーなのよ。ママの作るマドレーヌにはラム酒が入っているわ。あたしの好物よ」
 
「あらやだ。あなた達は、どうなっているのよ? まさか、本当に中身が入れ替わっているの?」

 叔母は、かなり狼狽していた。

「落ち着け。そんな馬鹿なことがあるものか!」

「だけど、あなた、現に、この二人はおかしくなっているじゃない!」

「確かに妙だな。それに、この少年が誰であれ、保護者が必要だ」

「ママ……。見捨てないで」

 ジョシュアの瞳は涙で溢れており、そのいたいけな表情に叔母は胸を突かれたらしい。催眠術でもかけられたかのようにメロメロになりハグしていたのである。

「坊や、あなたもうちの子になりなさい……」

 その言葉を聞いたジョシュアは安堵したように叔母に頬を摺り寄せていた。普段、私達に対して愛想は悪いけれど根は優しい叔父がうんうんと頷いている。

「そうだな。この少年を養子にするのも悪くないな。家業を継ぐ者は必要だからな」

 という訳で、ジョシュアは、バルモア家の養子になることで話がまとまったのである。

 すると、チェルシーが偉そうな口調でジュシュアに話しだしたのだ
 
「いいな。おまえは、これからは立ちションしろよな。僕も座ってオシッコするぜ。心配するな。おまえの体は大切にする。お互い、頑張ろうぜ」

 すると、ジョシュアは目からポロポロと涙をこぼしたのだった。

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