花咲く森のから騒ぎ
「すっごぉーい。別世界だわ!」

 応接室のテーブルが特に素晴らしかった。黒檀に貴石や貝殻が細かく嵌め込まれている。絵画、も彫像、タペストリー。立派な衝立や銀の燭台。どこもかしこも、壮麗な調度品で溢れている。

「クッションが金糸で飾られているのね。綺麗だわ」

 鼈甲の飾り扇子が。翡翠の宝石箱もある。貴族ってやっぱり違うのねと感動した。

「アルベール公爵様は、今でも、村人から慕われているのよね……」

「だが、十四年前に公爵が本を出版したことで王から目をつけられたんだよ」

 王は宮殿の庭を改装する事に国費を費やしており国庫は枯渇寸前だった。アルベール公爵様は財務報告書を出版した。それによって収支のすべてが暴露されることになった。

国庫の危機を知った国民は怒り狂った。アルベール公爵は貴族にも税を課そうと提案した。だけど、それが、アルベール公爵を窮地に陥れる結果になったという訳なのだ。

 ジョシュアは遠い昔の出来事を振り返るようにして呟いている。

「財務大臣だった公爵は負債を食い止めようとしていたんだ」

 絶対王政の構造に問題点がある。

「王様が一人で政治を行うことにはリスクを伴う。廷臣の意見も取り入れるべきなのだが、当時の王はアルベール公爵の言葉を煩わしいと感じていたのさ」

 しかも、アルベール公爵は立憲君主制を導入しようとする貴族と交流していたのである。それ故に、謀反の疑いをかけられてしまう。

『アルベール公爵はどこだ』 

 私達がジョシュアと出会った十二年前の夏、憲兵達が村にやって来た。王家への謀反の疑いで公爵は捕まった。領土も財産も没収された。

 憲兵が探し回っていると、数日後、なぜか、アルベール公爵は鶏小屋に身を潜めているところを発見されたのである。

『ピヨピヨ』

 公爵は鳥の鳴き真似をして惚けていたというのたから、みんな、ぶったまげたようである。

 投獄されたアルベール公爵は、なぜか鳥の言葉しか話せなくなっていたのである。まさか、アルベール様も赤の森に入ったのだろうか。

 あの森に入った者には呪いがかかることを公爵様も知っているはずなのに……。

 いや、知っているからこそ逃げ込んだのかもしれない。

 ジョシュアが、アルベール様の肖像画の前でしみじみと呟いている。

「大きな声では言えないけど、アルベール公爵様のような人が王様なら良かったんだけどな」

「ヘンリー王は、今、お体の具合が悪くて伏せてるのよね」

「ああ、王が弱ってるのをいい事に、地方の貴族どもは農民達に高い税を課してるようだぜ。王が死んだら、後を継ぐのは王子だが、あいつじゃ頼りにならない」

「だけど、革命でもしない限り王政は続くわよ」

「そうなんだよな。隣国のように革命をしたところで、新しく権力を握った奴が暴利を貪ったら意味が無い」

 隣国では血生臭い抗争の末に共和国が生まれたのだが、権力を握った貴族が軍部を牛耳って、敵対する貴族を粛清したのだ。

 結局は、新たな権力者が王のように我侭に振舞っているだけだもの。そんな革命ならしない方がマシというものだ。

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