イケメン狸さんたち、カボチャを届けにくるよ
第三話 妖怪
ギュッ

わたしはおばあちゃんから貰った袴のひもをなかなか言うことを聞かない指で慌てて結んだ。手は汗でべとべと。お腹はギュッとしていて痛い。

「お、おばあちゃん。わたし狸じゃないの。ば、化けないの…」

おばあちゃんは鋭い目でわたしを睨んだ。

「言い訳しないでさあさあとでていきなさい!」

わたしの背中がずん!と押されて玄関から転びそうになった。

もう!大人は本当に嫌い!!

というか、なんでおばあちゃんとおじいちゃんは化けるはずがないわたしを無理やり化け術を習うための寺子屋に行かせているの?!おばあちゃんとおじいちゃんは変なの!

狸でもないくせに狸だらけの島に住むなんて。

そもそも、なんでこんな島の存在なんか知ったんだろう…

わたしは小石を蹴りながら町へのくねくね坂道を下っていた。

唾を飲んだ。大きいな、この寺子屋。

寺子屋のまえにサラサラと白髮と小さなまん丸いもふもふたぬきみみの男の子と二人の小さなたぬきが立っていた。

「化けるのは最初は誰でも難しく感じますよ。夏休みは一生懸命勉強しましたね。きっと、そのうちできるようになりますよ。」

耳をたーらんとしていた小さなたぬきたちはうんうん!!と頭を大きく振りながらぴょんぴょんとあの男の人の周りを飛び跳ねた。

あの男の人はニコニコしながらたぬきたちを撫でた。

「あ、あの、すみません。」

わたしは3匹の間を通って寺子屋の中へ入ろうとしたら…

「転校生ですか?こちらは子たぬきの寺子屋ですけど…見た目からしたら大たぬきの寺子屋の生徒でしょうか?私もそちらへ通うので連れて行ってあげましょうっか?」

え?!は、はずっ!!!わたしは顔を手に突っ込んだ。きゃー!!!

「私は狸里柊。よろしくお願いします。」

「狢沢千結です。よ、よろしく。」

柊さんは優しく微笑んだ。

庭を渡って、大たぬきの寺子屋の板材の床をトコトコ進んでいた。

「こちらになります。」

シュー

障子を開けると…

そこには低い机と座布団が大きな輪の形に並べられていた。ざっと数えて12個くらい。反対側の壁は開いており、秋の庭からキンモクセイの香りがふわっ〜と漂ってくる。

思わず深呼吸した。

庭の木の上、きらきらと光る秋の柔らかい日光は霧の帽子のようだ。

部屋の中の湿気が鼻の中にくっついて、キンモクセイの香りがなおさら強くなる。

輪の真ん中に背の高い男の人が立っていた。

びゅ〜ん!

首が伸びた!!

こっち向いた!

ぐるぐる。わたしを囲んだ!!

「あ〜狢沢千結っか。」

男の人が唇をゆっくりと裂けてニヤリと白くて鋭い歯を見せつけた。

「俺はポン助。大たぬきの寺子屋の先生の一人だ。よろしくな。」

ポン助先生はぐるんと首を逆さまにし、わたしを不気味に見下ろした。

すると…

ポツン!

目の前が煙だらけになって反射的に目をギュッとしめた。

ゲホッゲホッ

まぶたから力を抜けた。すこしずつ目が自然に開いた。

目の前には…

頭よりも大きな葉っぱを被った一匹の太ったたぬき?!

「悪い、悪い、怖がらせちゃって。みんなの子は北海道からここに転校した狢沢千結。仲良くしてください。」

みんなはじっーとわたしを見つめた。みんなの中には丸吉くんも牙くんもいつのまにか座っていた柊さんの姿も確認できた。

「それでは、午後の化け術テストに備えて今日はみんなで練習しようとするっか。」

わたしはポン助先生のとなりに立ったままキョロキョロと教室を見渡した。

「あ、あの…どこに座ればいい?」

ポン助先生は不思議そうけど優しくわたしを見つめた。

「座布団の上。」

ここは決めた席がないって感じか。わたしはポン助先生の視野にできるだけ入りづらくなるように、ポン助先生の後ろにある座布団のうえに座った。隣には銀色の髪の毛の男の子が静かに本を読んでいた。

「それでは、里山くんとさっき話した内容だが、この世の妖怪はすべて化けているたぬきにすぎない。人間の昔話にでてくる河童やろくろ首や人目坊主もすべて、たぬき。じゃ、たぬきはなぜ妖怪に化けるか分かる人いるかな?」

隣の男の子が本を読みながらも、流れるような動きで手をあげた。

「それは、たぬきの秘密をバレずに人間を助けるためです。」

「深川くん、正解!」

先生は深川くんが授業中本を読んでいることをまったく気にもしないみたい。

硬い木材の上に指紋が浮かび上がるくらい強く押して、深川くんの読んでいる本の中を覗き込んだ。

か、漢文?!?!

そこにはひらがな一文字もなかった。レ点などはあるから中国語ではないとわかるけど…送り仮名は?!?

深川くんはふっと見上げた。目があった。

ポン助先生はポンポコポンとお腹を叩いた。

「それでは、これからは順番に先生の言った妖怪に化けてみせてください。はい!たぬきの姿にもどれ!」

そういうと部屋中は煙いっぱいになった。

や、やばい!!わたしはたぬきになれない?!

焦ってわたしはできるだけ身を低くして机の下に隠れた。

机と床の隙間からみんなを観察した。

「はい、素晴らしい!次!黒森くん!あまびえ!」

先生のもふもふしている足のつま先がゆっくりと輪の中を周り、だんだんわたしの正面へと来た。

なんか視線を感じる。

ふっと右上を見上げたら、そこには深川くんの夜の海のような深くて暗い瞳がわたしを見下ろしていた。

そして、口角が緩め、わたしにウィンクしてきた。

「はい、つぎ!狢沢ちゃん!!化け猫!」

ドキドキドキ

もうバレてしまうだろう…この島から追い出されちゃうんだろう…それならお母さんのところへ戻れるかも…それならいい。

わたしが机の下から顔を出したその時。

ふっとなにかが頭に落ちた。

ぽっわん!!

ゲホッゲホッ

見えない…体中がむずむずする…これはきびしい罰だったか…死んじゃうのかな…

煙がおさまったら…

あれ…肉球…?

「がっはっはっはっは、デブ猫だ!!」

「見事な化け猫!深川くんのライバルにふさわしいほどの才能がこの寺子屋に来て先生はもう…ご満悦!」

ポン助先生はぐしゃぐしゃとわたしの頭をなでまわした。

「つぎ!」

そして、昼ご飯の休憩となる。みんなは中の庭で子たぬきの寺子屋の生徒と一緒に紅葉を浴びながらお弁当をなかよく食べていた。たぬきも雑食みたいで、わたしの弁当と中身はまったく変わらない和食だ。

端っこに1人で座っている深川くんの影をみつけた。

「あのね、先はありがとう。」

深川くんは笑った。

「やあ、まさか転校生はまったく化けない子とは思ってなかったな。俺、深川冬孝。」

深川冬孝…

「あの、午後のテストも…手伝ってくれるかな?」

深川くんの目の奥がキラッとなった。

「ダメ。それはもうカンニングだろ。それまでに自分で練習しろ。」

ま、ま、待って?!?!今回は奇跡的に助かったけど…この午後は本当にもう終わっちゃう!!!!どうしよう?!
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