あなたがいるから世界は美しい
第三章
久しぶりの出勤に期待と不安が入り混じっていた。寧々の仕事内容次第で即座に解雇となる。何とか、期待に添いたいものである。
会長の運転手の江藤さんが送迎してくれるので通勤ラッシュとは無縁。大名出勤と、寧々は名付けている。
(こんな贅沢が許されるなんて最高だわ……)
ちなみに、鈴木蓮は寧々より少し遅れて、午後十時頃に自分の車で出社する。
(こうやってビルに入るのは久しぶり!)
昨日の午後、長く伸ばしてた髪をカットした。ボブスタイルだ。キャバ嬢の自分と決別してリセットしたかった。
紺色のパンツスーツ。淡いブルーのシャツ。肩にはA4サイズの書類が入る茶色の革製のトートバッグ。少しヒールのある黒いパンプス。キャリアウーマンらしい服装で颯爽と出社した。まずは、警備の男性に元気良く挨拶をしながらゲートを通過していく。
「おはようございます。よろしくお願いします」
同期の秘書仲間は退社しており女性陣の顔ぶれは大きく変わっている。最近は、秘書も派遣社員なのだ。あれから七年以上が経過している。色々とアドバイスをしてくれた緒方さんの顔を探したのだが、残念ながら二年前に乳癌で亡くなったらしい。
(お葬式にも行ってないよ……)
悲しんでいる暇などなさそうだ。彼が出社するまでに、メールのチェックをして資料をファイルするように言われている。
「副社長、おはようございます」
十時に鈴木蓮が出勤してきた。細身の身体に沿った綺麗なラインの煙るような紺色のスーツにスモークピンクのネクタイ。ハーフっぽい顔立ちの彼に似合っている。毛先だけが少し跳ねた髪も素敵だ。どうやら、毎朝、髪をドライヤーで丹念に伸ばしているらしい。
「羽生さん、明日のビジネスランチの予約と、来週出会う予定の投資家のゴールドマン夫人への手土産の用意を頼むよ。それと、明日、ビコー・プロダクションとの会議の資料も頼む」
午前中はデスクワーク。お昼は小売業者と共にランチ。午後は千葉にある化粧品工場への視察。夕刻は政治家のパーティー。これが今日の彼の主な予定である。その合間に、椿薔薇コスメの各部署とのリモート会議。
アポをとろうとする人達の中には、ビシネスとは関係のない妙な売り込みをする人もいる。逆に、とても重要な企画や投資話を持ち込む人もいるので、そこらへんの見極めも重要だ。
鈴木蓮は名もなき若き企業家とも頻繁に交流をしていた。会談する際の店を予約するのも寧々の仕事である。
お昼休み、うっかり、女子トイレの個室で総務の若い女性社員の噂話を聞いてしまったのだ。
「意外だったね。副社長って男の秘書しか雇わない主義だと思ってたわ。今度の秘書は創業者のお気に入りのだったらしいね」
「副社長って気難しいからさぁ、若い子じゃ無理なんだよ。おばさんの包容力か必要なのよ」
吉良勇人は鈴木蓮の幼馴染でゲイだ。だから、鈴木蓮もゲイに違いないと、若い女子社員は妄想している。
「それにしても、心配だよね。吉良君は戻れるのかな。羽生さんと副社長じゃ萌えにならないわ」
短大卒の二十歳そこそこの彼女達は悪気もなく噂をしているが、おばさんと言われても腹は立たなかった。ちなみに、若い男性社員は鈴木蓮のことが好きではないようだ。
『あいつ、上から目線でうぜぇ。何が副社長だ。偉そうにしてやがる』
『ほんとだぜ。突拍子もない事ばかり言うから困るぜ。苦労知らずの御曹司の気紛れに付き合ってられるかよ。つーか、リモート会議ばっかりやらせるなつーの。出張させろっつーの』
椿薔薇コスメ。これは、会長が椿の花が好きで奥様が薔薇を愛していたことから名付けられたものである。会長の妻の鈴木愛子さんは元華族の家系。愛子さんの知り合いもセレブ揃いだ。
椿薔薇印のコスメはセレブの象徴となり、デパートや専門店に人が押し寄せたが、最近は、深夜のテレビ通販とデパートや高級エステ店での販売が主流となっている。
残念ながら、近年、母体である化粧品会社の業績は思わしくない。
その代わり、七年前、会長の娘婿の大河内社長が女子向けのゲームを制作する会社を買収している。元々、人気コンテンツをたくさん持つ業績のいい会社だったけれども、前の経営者が投資に失敗して負債を抱えたせいで手放したという。
アルファ。それが乙女ゲームを主体としている会社の名前だ。
鈴木蓮は、大学生の頃から、そのゲーム会社の運営を任されていた。最近は、本社の化粧品の経営にも口を出すようになったのだが、そのせいで煙たがられている。
こうして、一日が終わろうとしたのだが、寧々は早足で営業部の前の廊下を歩いていると、後ろから声をかけられたのである。
「寧々!」
振り返ると、元カレの友則が呆然としたようにこっちを見ていた。外回りから戻って来たようだ。
営業先の方から貰ったと思われる、お土産屋の紙袋を手にしたまま近寄ってきた。
「おい、なんで、おまえがここに?」
懐かしそうな顔で近付く友則だったが、それを牽制するように寧々は冷ややかに告げた。
「お久しぶりです。副社長の秘書として雇われました」
あなたとは他人ですよ。
わざと慇懃無礼な態度を取って背を向けようとしたのだが、なぜか、友則はクスッと笑い出した。
「何、笑ってるの?」
「いや、また会えて嬉しいんだよ」
自分のやった事を忘れたのだろうか。友則は屈託なく微笑んでいる。
「おかえり、寧々……。これからは、毎日、会えるんだな」
「はぁ?」
何なのだ。どうして、そんなふうに喜びに溢れているのかと問いたい。
元カレの友則と長く接していると気持ちが乱れるので、その場をスタスタと離れる事にした。
寧々は、しかめっ面になっている。ツルツルのステンレスのエレベーターの扉は鏡のように背後を映している。
(あの人、馬鹿なのかしら)
なんと、寧々がエレベーターに乗る様子を見つめながら、友則はガッツポーズを取っていたのだ。
※
翌日の朝。寧々は鈴木蓮にスケジュールを伝えてきた。彼は、マーケティング部から届いた書類の束に目を通しながら忙しげな声で言う。
「法務部の柏木さんを呼んでくれないか。緊急の要件があるんだよ」
「かしこまりました」
とまぁ、こんなふうにして秘書として三日が過ぎた頃。経理部の桑井舞子がランチに行こうと言ってきた。彼女はランチにお金をかけない。
連れて行かれたのは会社の裏手にある立ち食い蕎麦の店だった。
「それで、あんた、どうして、会社に復帰できたの?」
早速、桑井が興味深そうに聞いてきた。
「これには色々と理由があるのよ」
ズズッと、温かな汁のお蕎麦を啜る合間に経緯を伝えたところ彼女は面白そうに頷いた。
「なるほどね。それは奇妙な縁だね。あのさ、病欠している吉良君は有能で性格も良かったのよ。領収証もきちんとしてたの。その後に雇われた男の秘書二人は使えなくて、坊やに解雇されたのよ」
「坊やって?」
「副社長のことよ。世が世なら、あたしの年齢だと子供だとしてもおかしくないからね」
「それ、平安時代とかだよね……」
「令和でも十七歳ぐらいでママになる人はいるわよ。副社長なんだけど若くて可愛いって意味で坊やなの」
三十七歳。化粧っ気がなくてソバカスが目立つ彼女が言う。
会長がいた頃はアジアの富裕層の顧客の獲得を狙っていたが、今は海外事業部は縮小されている。かろうじて、シンガポールだけが全盛期と同じ規模で存続しているという。
現社長と鈴木蓮は矢面に立ってデジタル化や効率化を推進しているが、まだまだ理想に辿り着けていない。
「深夜の通販番組の受注も伸び悩んでいるわ。元々、うちは、口達者なセールスレディにまんまと乗せられて買うっていうパターンが主流だったからね」
しかし、顧客の多くは年金生活者になっている。
「うちも価格を抑えるしかないのよ。だけど、貧乏臭くなるって反対する人もいる。坊やは経費削減の鬼なの。坊やの提案で、出張の経費や接待費も厳しく監査するようになったの。休日のゴルフ接待もなくすように指示したわ。女性の幹部を増やして無能な男性社員を切り捨てようとしているから、無能な男達は戦々恐々よ」
言いながら可笑しそうに笑っている。
「半年前の事なんだけど、総務の若い女子社員と妻帯者が深夜に社内で不倫してたの。副社長は、営業部のデスクの上でセックスしているところに踏み込んで冷酷に言い放ったの。残業手当をもらいながら何をしているのですかってね」
その後、佐々木係長は山梨の工場に飛ばされた。女性社員は依願退職している。社員がどこにいるのか位置が分かるシステムを導入したおかげで、社内不倫と喫煙が激減しているという。
「坊やが来てからは退屈しないわ。雨の日になると可愛らしいの。天然パーマが際立つの。ふふっ。本人は、秘かに気にしているっぽいけどね」
また、涌井と話せるようになって良かった。おつゆを、ゆっくりと飲む涌井を残して寧々は椅子から立ち上がる。
「涌井さん、あたし、先に戻るね」
「うん。早く戻りなさい。雨が降りそうだよ。あたしはコンビニに寄ってから帰るわ」
涌井の言うとおり、雨が降り出しそうだったので早足に帰ることにしたのである。
ちょうど社屋に入った時には雨粒が大きくなっていた。仕事を始める前にトイレでパンプスを脱いで絆創膏を貼って踵を労わる。黒のパンプスは、ずっと前のものだ。新しい靴が欲しいけれど、今は我慢するしかない。
午後四時、鈴木蓮が外から戻ってエレベーターに乗り込んだ。常時、エントランスの光景をモニターで見る事が出来るのだ。すぐに彼の部屋の空調の温度を下げる。
五階の執務室に戻って来たのだが、その額には汗が滲んでいる。寧々はキッチンの冷蔵庫から冷えたおしぼりを手渡した。
「何かお飲みになりますか? お好きだと聞いていたのでフィナンシェをお持ちしました。良かったらどうぞ」
「冷たい紅茶を頼むよ。前はコーヒー派だったが、あんたの紅茶は美味しいから紅茶も好きになった」
この人はアールグレイに瀬戸内檸檬のジャムを入れたものが好きなのだ。椅子に座り脚を組んだまま紅茶に口をつけると思い出したように言った。
「あのさ、昨日は助かったよ」
昨夜、鈴木蓮は日本で暮らしているインド人の宝石商の葬儀に出ることになったのだ。
「あんた、色んな宗教に精通してんだな」
急に、通夜や告別式に出る事になっても寧々がいれば大丈夫。ヒンズー教徒の葬儀ってどうなっているのかと問われてもスラスラと答えられる。もちろん、ユダヤ教の事もバッチリと頭に入っている。
会長の秘書だった頃は、あらゆる場へと出かけており、セレブの情報が細かくインプットされているのだ。実は、今朝も、鈴木蓮に対してこんなアドバイスをしている。
『マダム絹恵は無駄毛が嫌いなんです。おぞましいと本気で思っていますから、会う前に腕と指の毛を引っこ抜いてくださいね。それと、明日のお昼は、ニンニクは禁止にして下さい。美容家の橘一葉さんは些細な匂いに敏感です。初対面なのに、こんな事で印象を損ねる訳にはいきませんからね』
おせっかいを込めて、あれこれと細かい助言をするようになっている。
「あんた、秘書として有能だな」
褒められると素直に嬉しい。照れくさそうに告白していた。
「いいえ、若い頃は無知だったし、失敗を重ねましたよ。お礼状を書くのも、最初は、会長が文面を考えていたんです。こうやって人並みに常識を身につける事が出来たのは会長のおかげです」
肘掛け椅子に座ってお茶を飲む鈴木蓮が、不思議そうに交際業務の伝票を眺めている。
「ところで、このフィナンシェ代はどうなっている?」
「あっ、すみません。あたしが勝手に焼いたものなので計上していません」
「自腹かよ?」
「アーモンドパウダーは買いましたけどバターと砂糖はお宅のものを使っています。副社長がお好きなようなので作りました。お味はどうですか?」
鈴木蓮は午後のティータイムに焼き菓子を食べる習慣があるので用意しているのである。
「すごく美味いよ。でも、オレの頭を直す為に持ってきたドライヤーと櫛も爪切りも眉毛カットも、あんたの私物だよな?」
「それが何か?」
「経費に計上しろ」
「それは駄目です。営業部の男性の整髪材やカツラも経費で落とすことになりますからね。そんな事より、今のうちに爪を切って下さいね。今夜のパーティーに合うスーツとネクタイを選んでおきました。あっ、髪が外国の赤ん坊みたいにクルンクルンですね。直さなくちゃ。んふふ。やだ、これはこれで可愛いですね」
「あんた、オレのママかよ?」
ちょっと渋面になり、少しばかり嫌がる素振りを見せながらも、どこか照れ臭そうにしている。その顔が可愛いので、寧々はクスッと微笑み返す。
彼は、ドライヤーを片付ける寧々の背中に語りかけている。
「つーか、手を抜くところは抜いていいんだぜ。手書きの招待状や礼状でなくていい。パソコンの文字の印刷で充分だ」
「すみません。文字が汚かったですか?」
「ちげーえ。芸術的な美文字だ! でも、そこまで丁寧にしなくてもいい。非効率だろ。向こうもそこまでの誠意を必要としてない」
「はぁ、すみません」
ショボンとしていると、鈴木蓮がフーッと溜め息をついてから寧々の肩をポンと叩いた。
「別に怒っているんじゃないよ。ただ、無駄に頑張りすぎると疲れるぞって言いたいのさ。プレゼン資料の作成は今週中でいいからな」
「はい、分かってます」
「さてと、経営戦略会議だな。会議室に行くとするか」
社長などの経営陣と財務や法務や商品企画の社員が集まると、早速、鈴木蓮は皆に今後の戦略について話し始めた。
鈴木蓮は、自らがプロデュースするスマホの乙女ゲームの顧客を絡めてコスメを開発しようと提案している。それは、十六世紀のフランスの世界観の中で繰り広げられるスマホゲームだ。フラワー剣士は十二人いる。薔薇、水仙、スミレ、ライラック、蘭、チューリップ、マーガレット、エリカ、鈴蘭、ジギタリス、フリージア、クリスマスローズ。それぞれの花の属性を持つイケメン剣士のイメージに沿った洗顔石鹸や化粧水などを作り、ファンに買ってもらうという発想はいいのに、役員達はキョトンとしていたりする。
『推し活コスメ』
フラワー剣士は、この年末に舞台化されて公演される。
『推しと同じコスメに萌える』
この心理について熱く語りプレゼンするが、年配の役員達は共感できないようである。
幸い、感性が若々しい大河内社長は前のめりになり興味を示している。社長の娘が乙女ゲームの熱烈な愛好家なので分かるのだろう。
しかし、今のところ、ゲームのコンテンツとコスメの販売を融合させるプロジェクトは発案の段階で頓挫している。ちなみに、男性用化粧品のブランドを作る事は確定しているのだが、幹部は、やる気がなさそうに見える。ゲイでない男であろうとも、アイラインを入れたり口紅を使うという令和の現実がまるで分かっていない。
(今は化粧男子が多いのに……。ていうか、日本は、昔から、男も化粧する文化があるのに……)
片隅から様子を見守る寧々は参観日の母親のような心境になってきた。
鈴木蓮は熱弁する。
『AIに任せられる部署は、早急に変えるべきです』
最近の若い子は、お化粧バッチリの美容部員と対面するよりもアバターとの会話を介してのやりとりの方が楽だと感じている。これは事実だ。
販売員を生身の人間からAIにチェンジする。それも、出来るだけ早くそうする事で人件費は削減できる。
『今後は、バーチャルな店舗が主流となります。アバター店員を本格的に増やすべきです。ゆくゆくはAIに接客を任せることになります』
鈴木蓮が強く主張しても、彼等は大胆に前に踏み出そうとしない。おじさん達は変化が嫌いだ。
『あまり突飛な変革はリスクがあるからね』
商品企画に携わる者達は興味を持っているが、特に財務は難色を示している。
こうして会議は終わった。その事に苛立ちを覚えたのか、仏頂面のまま執務室に戻ってきた。小腹が減ったのだろう。寧々が作ったクッキーを無造作に食べ始めている。
「あいつら、分かってないよな。死んだばあさんは、ある意味、ゴリゴリの美容オタクで夢見る夢子さんだったんだぜ。そういう意味じゃ、ゲームキャラとの融合は、ばあさんの路線を継承していると思うけどね」
皮肉たっぷりだが、お茶目で愛らしい祖母への愛が滲んでいる。
会長と妻の愛子さんは周囲から反対されて駆け落ちしている。当時の会長は、愛子さんの家庭教師だったのだ。
「じぃさんは苦学生でさぁ、公務員になったんだけど辞めて企業したんだよ」
東大法学部卒の会長はコスメに関しては素人だったが、民法や商法や労働法を学んでおり、特許や知的財産権や契約に関する知識はあったので会社を立ち上げる際に役立った。しかし、製品のクオリティを高める事に苦労したという。
「じぃさんは、ばぁさんが喜ぶ商品を作ることに命をかけていたからなぁ」
市場の動きやお客様のニーズよりも、『愛子ちゃんの好みと感性』を優先させており、パッケージのデザインも愛子さんが選んできた。寧々が退社した直後に愛子さんが癌で亡くなってしまい、会社は創造の源となるミューズを失くしている。
さてさて、今後、どうするのか。
「うーん、でも、あたしは、これまでのマダム路線から逸脱することに反対する人の気持ちも分かりますよ。副社長は、まだ社員から信頼されていません。会長は、仮に香水を作るとなると、国内はもちろん海外の調香師とも接触していました。しかも、御自分で医学雑誌を読んで新成分を勉強しておられましたからね」
「じぃさんは社交的で努力家だった。オレはじいさんのように、取引先の人達や部下と信頼関係を作り上げてない。組織を引っ張るには、やっぱり、じいさんみたいに、色々な知識と経験を積む必要があるようだな」
ちなみに、うちの営業部の男性は女性顔負けの知識を持っている。研究部員の男子などはもっと凄い。自らの皮膚をベースにして様々なものを作り出そうとあれこれと奮闘している。
寧々は真剣な顔で言う、
「あたしの知り合いの営業部の男性は、あたしがつけている香りがシトラス系なのかフローラル系なのかすぐに気付いてましたよ。副社長も、それぐらいにならないと駄目ですね」
「オレは、知識も経験も足りていない。そこは真摯に反省しているよ」
意外にも鈴木蓮は謙虚だ。
(そういう側面を見せないからなぁ。色々と誤解されるんだよね)
化粧品に関しては会長夫人の従弟の開原悟が実権を握っている。少なくとも彼がいる間は大きな路線変更は難しいだろう。
寧々が定時で帰宅するつもりで部屋から出ようとしていると、鈴木蓮が、急に思い出したように告げた。
「あっ、月曜日の午後までに誕生日プレゼントを用意しておいてくれないか?」
「かしこまりました。その方の年齢や御趣味や経歴を教えていただけますか」
取引先の社長令嬢の御機嫌とりに何かを贈るのかと思ったのだが、そうではないらしい。極めて素っ気無い口調で彼は告げた。
「棚部杏さん。大学四年生だよ。二年前、インターンシップでうちの実習を受けたんだ。斬新なビジネスプランを出してくれるし、乙女ゲームに詳しいので、アルファの企画室でアルバイトとして働いてもらっている。彼女の誕生日だから何か渡したい。プレゼントの費用は三千円。棚部さんがいる部署では一律その値段のものを同僚に渡している。とにかく、オレとしては彼女に就職してもらいたいんだ」
「……そんなに優秀なんですか」
すると、鈴木蓮は素直に敬意を示すような顔つきで言った。
「乙女ゲームの推し活の一環としてコスメを売るアイデアは棚部さんのものだ。彼女は消費者のニーズを知っている。でも、残念な事に、彼女の親は娘を就職させるよりも早く結婚させたがっているらしいよ」
「顔見知りならば、副社長がブレゼントをお買いになった方がよろしいのではありませんか?」
「あんたは、相手の萌えのツボを汲み取るのが上手い。あんたが選ぶ方が棚部さんも喜ぶと思うんだ」
「棚部さんはインスタとかブログとかやっていますか?」
「ああ、それなら、ブログをやってたかな」
彼がそこまで褒める人材とは、どんな人なのか。とても興味深い。
「顔写真をブログに載せていますか?」
「いや、顔出しはしてないよ。あっ、去年のクリスマス会の写真ならあるよ。オレも参加した」
それは、ゲーム会社アルファの主要メンバーと寛ぐ姿だった。
服装は保守的だ。髪はまっすぐな黒髪。カラコンや付け睫毛など付けていない。美人という感じでもないが清楚で誠実そうな雰囲気があり優しげだ。
「奥ゆかしい雰囲気の可愛らしい人ですね」
そんな会話を終えた後、定時で仕事を終えていた。運転手さんの車で帰宅するとすぐにジェリーの散歩を行なった。これは寧々にとって仕事というよりも癒しなのだ。
今のところ、鈴木蓮と自宅で接する機会は少ない。食事も別々だ。適切な距離を保って暮らしていくつもりだ。その夜、ベッドで寝転びながら棚部杏という女性の情報を集めることにした。
(へーえ、棚部さんは商学部のマーケティング学科の大学四年生なのか……)
顧客のニーズの把握。広告。カスタマーサポートなど、それらすべてを含めてマーケティングなのだ。戦国時代で例えると、社長は殿様。足軽は派遣社員。そして、マーケティングは軍師のようなもの。
経営者として、優秀な棚部さんのことを繋ぎとめておきたいと思うのも当然だ。
棚部さんのブログを見たところ、好きな小説や漫画について熱く解説していた。それに共感した人達が楽しげにコメントを寄せている。彼女は私生活のこともポツポツと綴っている。幼少期から大学までずっと女子高育ちで、五歳年上の兄は結婚しており、シドニーで暮らしているのだ。
棚部さんは簡素な服装を好み、ブランドものよりも肌に優しいものを選んでいる。
(素朴で透明感のある女の子だな……)
愚痴や悪口をネットに晒さない。賢くて慎ましい女の子だ。仲間達と和気藹々とアニメキャラの推し活をしている。読んでるこっちもホッコリしてくる。
(うーむ。実家は滋賀の和菓子屋さんなのね)
色々と迷いながらも、棚部さんが欲しいと綴っていた蜂蜜を選んだ。寧々自身が貰った事のある商品なので品質も味も間違いない。きっと喜んでもらえるだろう。
月曜の午前中に鈴木蓮に渡すと。彼は、それを持ってゲーム会社へと向かった。
☆
月曜の午前零時。森の向こうから車のヘッドライトが射し込んできた。
寧々はエンジン音に耳を傾ける。いつものように車庫に車を停めると、玄関から台所へと近付いてきた。扉が開いたので、パジャマ姿の寧々がニコッと微笑む。
「おかえりなさい」
「ただいま」
水を飲み干した後、何気なく寧々のノートパソコンを覗き込むと、おやっというように片側の眉を上げた。
「それ、うちの会社の乙女ゲームだな。面白いか?」
「イラストがすごく好きなんですよ。昔は、こういうゲームに興味なかったんです。逆ハーレムなんて馬鹿みたいだと思ってました。でも、今は癒されています。この歳になると擬似恋愛で乗り切るしかありませんからね」
寧々の正直な告白にボソッと小声で告げている。
「卑屈なことばっかり言ってると老け込むぞ。まだ若いんだから希望を捨てずに邁進しろよ」
テーブルを見回したかと思うと、寧々が食べ残している唐揚げをヒョイとつまみ食して頬ばり、。うめぇと子供っぽく呟いている。
(ああ、それ、明日のお弁当の材料にしようと思ってたのにな……)
寧々のことをルームシェアしているオバさんのように思っているに違いない。パジャマ姿でスッピンなのだが、寧々はそれを隠そうとは思わない。
「今日は帰りが遅かったですね。棚部さんの反応はどうでしたか?」
「ああ、喜んでいたよ。会社の有志が集まって彼女のバースデーを祝ったんだ。その後、オレは大学時代の親友の相川と飲んだ。相川と接客アバターについて話したんだが、これから、予算を確保しないといけない。システム構築の費用が嵩みそうなんだ」
言いながらクシャッと片手で髪を掻いている。
「オレのポケットマネーで勝手にやっちまいたいな。オレは、会社のおっさん達を説得するのは向いてねぇんだよなぁ。オレって偉そうにしているように見えるらしいな」
「へーえ、自覚があったんですね? 味方を作るしたたかさも必要ですよ」
そんなふうに言いながら、優しく鼻頭にシワを寄せてクスッと微笑む。
「でも、焦る必要はありませんよ。副社長は会社に必要なことをやろうとしています。改革なくして発展はありえませんよ。まだまだこれからですよ。きっと、いつかはみんながついてくるようになります」
「あんたって、やっぱり、人たらしの天才だな。つーか、オレを待ってないで寝ろ」
「だけど、ここって森や山に囲まれた一軒屋で誰もいないから一人だと怖いんですよ。泥棒が来たらどうしようって不安になります。それに、あなたが事故に遭っていないか気になるんです。こうして、無事な姿を見たら安心して眠れます」
不意打ちを喰らったように鈴木蓮が表情を変えた。そして、なぜか、乱暴にグシャグシャと寧々の頭を撫でながら言った。
「分かったよ。これからは出来る限り早く帰るようにするよ」
顔立ちは少しも似ていないのに、この人は会長に似ている。ほんわりとした日だまりのような空気を感じた瞬間、ポッと温かなものが胸に灯った。ふっと、彼がエコバッグを差し出したのである。
「あっ、そうだ。誕生日、おめでとう」
本人もすっかり忘れていた。三十五回目のバースデー。プレゼントの中身は高級な革のパンプスだった。デザインは少し古めかしいが、それ故に履き心地が良さそうだ。
「サイズが合うかどうか履いてみろよ」
「ピッタリです。なんで、サイズが分かったんですか」
「じぃさんの秘書をしていた頃に愛用していたブランドだ。デパートの外商さんが、あんたの事を覚えていた。測定した足型も残ってた」
「う、嬉しいです。ありがとうございます。この靴、本当に助かります」
「あんた、足の豆に悩んでいたもんな?」
そう言うと、彼は寧々の足元に視線を落とした。寧々の顔は綻んだ。
「じぃさんの事だけど、ずっと意識不明のままなんだ。幸い、命に別状はない。意識を取り戻したら知らせるよ」
「色々とありがとうございます。ほんと、嬉しいです。家族さえも、あたしの誕生日を忘れているんですよ。プレゼントをもらったのって久しぶりです」
「いいから、とっとと寝ろよ」
「あっ、はい。おやすみなさい」
素直にベッドに滑り込んだが眠れそうになかった。少し前の寧々は場末のキャバクラで慣れないお酒を飲みながら精神を擦り減らしていたのだ。
お酒や煙草や嘘やお世辞にまみれて、自分が、どんどん汚れて朽ち果てていくようで辛かった。粘着質な客にストーカーされた時は不眠症になった。でも、今は、心の底から安心して眠れる。
寧々は寝返りを打った。床に視線を落とすと、老犬のジェリーが安らかな寝息を立てていた。
実は、昨日、ジェリーは玄関マットの上でオシッコを漏らしてしまい、そこに鈴木蓮が帰ってきたものだから、ジェリーは脱兎のごとく逃げ出している。
『おそらく、漏らす度に叱られていたんだろうな。ペット用のシーツ以外の場所にオシッコしたとしても、こいつが悪い訳じゃないのにな』
ネクタイを緩めながら苦笑していた。あの時の彼は、怯えるジェリーの頭を撫でようとして寂しそうに手を引っ込めてる。クールそうに見えていい人なのだ。最初の出会いは最悪だったけれども、今のところ上手くやれている。
秘書として精一杯頑張ろうと決意をしていたのだが、恋の嵐は、すぐそこまで迫っていた。
会長の運転手の江藤さんが送迎してくれるので通勤ラッシュとは無縁。大名出勤と、寧々は名付けている。
(こんな贅沢が許されるなんて最高だわ……)
ちなみに、鈴木蓮は寧々より少し遅れて、午後十時頃に自分の車で出社する。
(こうやってビルに入るのは久しぶり!)
昨日の午後、長く伸ばしてた髪をカットした。ボブスタイルだ。キャバ嬢の自分と決別してリセットしたかった。
紺色のパンツスーツ。淡いブルーのシャツ。肩にはA4サイズの書類が入る茶色の革製のトートバッグ。少しヒールのある黒いパンプス。キャリアウーマンらしい服装で颯爽と出社した。まずは、警備の男性に元気良く挨拶をしながらゲートを通過していく。
「おはようございます。よろしくお願いします」
同期の秘書仲間は退社しており女性陣の顔ぶれは大きく変わっている。最近は、秘書も派遣社員なのだ。あれから七年以上が経過している。色々とアドバイスをしてくれた緒方さんの顔を探したのだが、残念ながら二年前に乳癌で亡くなったらしい。
(お葬式にも行ってないよ……)
悲しんでいる暇などなさそうだ。彼が出社するまでに、メールのチェックをして資料をファイルするように言われている。
「副社長、おはようございます」
十時に鈴木蓮が出勤してきた。細身の身体に沿った綺麗なラインの煙るような紺色のスーツにスモークピンクのネクタイ。ハーフっぽい顔立ちの彼に似合っている。毛先だけが少し跳ねた髪も素敵だ。どうやら、毎朝、髪をドライヤーで丹念に伸ばしているらしい。
「羽生さん、明日のビジネスランチの予約と、来週出会う予定の投資家のゴールドマン夫人への手土産の用意を頼むよ。それと、明日、ビコー・プロダクションとの会議の資料も頼む」
午前中はデスクワーク。お昼は小売業者と共にランチ。午後は千葉にある化粧品工場への視察。夕刻は政治家のパーティー。これが今日の彼の主な予定である。その合間に、椿薔薇コスメの各部署とのリモート会議。
アポをとろうとする人達の中には、ビシネスとは関係のない妙な売り込みをする人もいる。逆に、とても重要な企画や投資話を持ち込む人もいるので、そこらへんの見極めも重要だ。
鈴木蓮は名もなき若き企業家とも頻繁に交流をしていた。会談する際の店を予約するのも寧々の仕事である。
お昼休み、うっかり、女子トイレの個室で総務の若い女性社員の噂話を聞いてしまったのだ。
「意外だったね。副社長って男の秘書しか雇わない主義だと思ってたわ。今度の秘書は創業者のお気に入りのだったらしいね」
「副社長って気難しいからさぁ、若い子じゃ無理なんだよ。おばさんの包容力か必要なのよ」
吉良勇人は鈴木蓮の幼馴染でゲイだ。だから、鈴木蓮もゲイに違いないと、若い女子社員は妄想している。
「それにしても、心配だよね。吉良君は戻れるのかな。羽生さんと副社長じゃ萌えにならないわ」
短大卒の二十歳そこそこの彼女達は悪気もなく噂をしているが、おばさんと言われても腹は立たなかった。ちなみに、若い男性社員は鈴木蓮のことが好きではないようだ。
『あいつ、上から目線でうぜぇ。何が副社長だ。偉そうにしてやがる』
『ほんとだぜ。突拍子もない事ばかり言うから困るぜ。苦労知らずの御曹司の気紛れに付き合ってられるかよ。つーか、リモート会議ばっかりやらせるなつーの。出張させろっつーの』
椿薔薇コスメ。これは、会長が椿の花が好きで奥様が薔薇を愛していたことから名付けられたものである。会長の妻の鈴木愛子さんは元華族の家系。愛子さんの知り合いもセレブ揃いだ。
椿薔薇印のコスメはセレブの象徴となり、デパートや専門店に人が押し寄せたが、最近は、深夜のテレビ通販とデパートや高級エステ店での販売が主流となっている。
残念ながら、近年、母体である化粧品会社の業績は思わしくない。
その代わり、七年前、会長の娘婿の大河内社長が女子向けのゲームを制作する会社を買収している。元々、人気コンテンツをたくさん持つ業績のいい会社だったけれども、前の経営者が投資に失敗して負債を抱えたせいで手放したという。
アルファ。それが乙女ゲームを主体としている会社の名前だ。
鈴木蓮は、大学生の頃から、そのゲーム会社の運営を任されていた。最近は、本社の化粧品の経営にも口を出すようになったのだが、そのせいで煙たがられている。
こうして、一日が終わろうとしたのだが、寧々は早足で営業部の前の廊下を歩いていると、後ろから声をかけられたのである。
「寧々!」
振り返ると、元カレの友則が呆然としたようにこっちを見ていた。外回りから戻って来たようだ。
営業先の方から貰ったと思われる、お土産屋の紙袋を手にしたまま近寄ってきた。
「おい、なんで、おまえがここに?」
懐かしそうな顔で近付く友則だったが、それを牽制するように寧々は冷ややかに告げた。
「お久しぶりです。副社長の秘書として雇われました」
あなたとは他人ですよ。
わざと慇懃無礼な態度を取って背を向けようとしたのだが、なぜか、友則はクスッと笑い出した。
「何、笑ってるの?」
「いや、また会えて嬉しいんだよ」
自分のやった事を忘れたのだろうか。友則は屈託なく微笑んでいる。
「おかえり、寧々……。これからは、毎日、会えるんだな」
「はぁ?」
何なのだ。どうして、そんなふうに喜びに溢れているのかと問いたい。
元カレの友則と長く接していると気持ちが乱れるので、その場をスタスタと離れる事にした。
寧々は、しかめっ面になっている。ツルツルのステンレスのエレベーターの扉は鏡のように背後を映している。
(あの人、馬鹿なのかしら)
なんと、寧々がエレベーターに乗る様子を見つめながら、友則はガッツポーズを取っていたのだ。
※
翌日の朝。寧々は鈴木蓮にスケジュールを伝えてきた。彼は、マーケティング部から届いた書類の束に目を通しながら忙しげな声で言う。
「法務部の柏木さんを呼んでくれないか。緊急の要件があるんだよ」
「かしこまりました」
とまぁ、こんなふうにして秘書として三日が過ぎた頃。経理部の桑井舞子がランチに行こうと言ってきた。彼女はランチにお金をかけない。
連れて行かれたのは会社の裏手にある立ち食い蕎麦の店だった。
「それで、あんた、どうして、会社に復帰できたの?」
早速、桑井が興味深そうに聞いてきた。
「これには色々と理由があるのよ」
ズズッと、温かな汁のお蕎麦を啜る合間に経緯を伝えたところ彼女は面白そうに頷いた。
「なるほどね。それは奇妙な縁だね。あのさ、病欠している吉良君は有能で性格も良かったのよ。領収証もきちんとしてたの。その後に雇われた男の秘書二人は使えなくて、坊やに解雇されたのよ」
「坊やって?」
「副社長のことよ。世が世なら、あたしの年齢だと子供だとしてもおかしくないからね」
「それ、平安時代とかだよね……」
「令和でも十七歳ぐらいでママになる人はいるわよ。副社長なんだけど若くて可愛いって意味で坊やなの」
三十七歳。化粧っ気がなくてソバカスが目立つ彼女が言う。
会長がいた頃はアジアの富裕層の顧客の獲得を狙っていたが、今は海外事業部は縮小されている。かろうじて、シンガポールだけが全盛期と同じ規模で存続しているという。
現社長と鈴木蓮は矢面に立ってデジタル化や効率化を推進しているが、まだまだ理想に辿り着けていない。
「深夜の通販番組の受注も伸び悩んでいるわ。元々、うちは、口達者なセールスレディにまんまと乗せられて買うっていうパターンが主流だったからね」
しかし、顧客の多くは年金生活者になっている。
「うちも価格を抑えるしかないのよ。だけど、貧乏臭くなるって反対する人もいる。坊やは経費削減の鬼なの。坊やの提案で、出張の経費や接待費も厳しく監査するようになったの。休日のゴルフ接待もなくすように指示したわ。女性の幹部を増やして無能な男性社員を切り捨てようとしているから、無能な男達は戦々恐々よ」
言いながら可笑しそうに笑っている。
「半年前の事なんだけど、総務の若い女子社員と妻帯者が深夜に社内で不倫してたの。副社長は、営業部のデスクの上でセックスしているところに踏み込んで冷酷に言い放ったの。残業手当をもらいながら何をしているのですかってね」
その後、佐々木係長は山梨の工場に飛ばされた。女性社員は依願退職している。社員がどこにいるのか位置が分かるシステムを導入したおかげで、社内不倫と喫煙が激減しているという。
「坊やが来てからは退屈しないわ。雨の日になると可愛らしいの。天然パーマが際立つの。ふふっ。本人は、秘かに気にしているっぽいけどね」
また、涌井と話せるようになって良かった。おつゆを、ゆっくりと飲む涌井を残して寧々は椅子から立ち上がる。
「涌井さん、あたし、先に戻るね」
「うん。早く戻りなさい。雨が降りそうだよ。あたしはコンビニに寄ってから帰るわ」
涌井の言うとおり、雨が降り出しそうだったので早足に帰ることにしたのである。
ちょうど社屋に入った時には雨粒が大きくなっていた。仕事を始める前にトイレでパンプスを脱いで絆創膏を貼って踵を労わる。黒のパンプスは、ずっと前のものだ。新しい靴が欲しいけれど、今は我慢するしかない。
午後四時、鈴木蓮が外から戻ってエレベーターに乗り込んだ。常時、エントランスの光景をモニターで見る事が出来るのだ。すぐに彼の部屋の空調の温度を下げる。
五階の執務室に戻って来たのだが、その額には汗が滲んでいる。寧々はキッチンの冷蔵庫から冷えたおしぼりを手渡した。
「何かお飲みになりますか? お好きだと聞いていたのでフィナンシェをお持ちしました。良かったらどうぞ」
「冷たい紅茶を頼むよ。前はコーヒー派だったが、あんたの紅茶は美味しいから紅茶も好きになった」
この人はアールグレイに瀬戸内檸檬のジャムを入れたものが好きなのだ。椅子に座り脚を組んだまま紅茶に口をつけると思い出したように言った。
「あのさ、昨日は助かったよ」
昨夜、鈴木蓮は日本で暮らしているインド人の宝石商の葬儀に出ることになったのだ。
「あんた、色んな宗教に精通してんだな」
急に、通夜や告別式に出る事になっても寧々がいれば大丈夫。ヒンズー教徒の葬儀ってどうなっているのかと問われてもスラスラと答えられる。もちろん、ユダヤ教の事もバッチリと頭に入っている。
会長の秘書だった頃は、あらゆる場へと出かけており、セレブの情報が細かくインプットされているのだ。実は、今朝も、鈴木蓮に対してこんなアドバイスをしている。
『マダム絹恵は無駄毛が嫌いなんです。おぞましいと本気で思っていますから、会う前に腕と指の毛を引っこ抜いてくださいね。それと、明日のお昼は、ニンニクは禁止にして下さい。美容家の橘一葉さんは些細な匂いに敏感です。初対面なのに、こんな事で印象を損ねる訳にはいきませんからね』
おせっかいを込めて、あれこれと細かい助言をするようになっている。
「あんた、秘書として有能だな」
褒められると素直に嬉しい。照れくさそうに告白していた。
「いいえ、若い頃は無知だったし、失敗を重ねましたよ。お礼状を書くのも、最初は、会長が文面を考えていたんです。こうやって人並みに常識を身につける事が出来たのは会長のおかげです」
肘掛け椅子に座ってお茶を飲む鈴木蓮が、不思議そうに交際業務の伝票を眺めている。
「ところで、このフィナンシェ代はどうなっている?」
「あっ、すみません。あたしが勝手に焼いたものなので計上していません」
「自腹かよ?」
「アーモンドパウダーは買いましたけどバターと砂糖はお宅のものを使っています。副社長がお好きなようなので作りました。お味はどうですか?」
鈴木蓮は午後のティータイムに焼き菓子を食べる習慣があるので用意しているのである。
「すごく美味いよ。でも、オレの頭を直す為に持ってきたドライヤーと櫛も爪切りも眉毛カットも、あんたの私物だよな?」
「それが何か?」
「経費に計上しろ」
「それは駄目です。営業部の男性の整髪材やカツラも経費で落とすことになりますからね。そんな事より、今のうちに爪を切って下さいね。今夜のパーティーに合うスーツとネクタイを選んでおきました。あっ、髪が外国の赤ん坊みたいにクルンクルンですね。直さなくちゃ。んふふ。やだ、これはこれで可愛いですね」
「あんた、オレのママかよ?」
ちょっと渋面になり、少しばかり嫌がる素振りを見せながらも、どこか照れ臭そうにしている。その顔が可愛いので、寧々はクスッと微笑み返す。
彼は、ドライヤーを片付ける寧々の背中に語りかけている。
「つーか、手を抜くところは抜いていいんだぜ。手書きの招待状や礼状でなくていい。パソコンの文字の印刷で充分だ」
「すみません。文字が汚かったですか?」
「ちげーえ。芸術的な美文字だ! でも、そこまで丁寧にしなくてもいい。非効率だろ。向こうもそこまでの誠意を必要としてない」
「はぁ、すみません」
ショボンとしていると、鈴木蓮がフーッと溜め息をついてから寧々の肩をポンと叩いた。
「別に怒っているんじゃないよ。ただ、無駄に頑張りすぎると疲れるぞって言いたいのさ。プレゼン資料の作成は今週中でいいからな」
「はい、分かってます」
「さてと、経営戦略会議だな。会議室に行くとするか」
社長などの経営陣と財務や法務や商品企画の社員が集まると、早速、鈴木蓮は皆に今後の戦略について話し始めた。
鈴木蓮は、自らがプロデュースするスマホの乙女ゲームの顧客を絡めてコスメを開発しようと提案している。それは、十六世紀のフランスの世界観の中で繰り広げられるスマホゲームだ。フラワー剣士は十二人いる。薔薇、水仙、スミレ、ライラック、蘭、チューリップ、マーガレット、エリカ、鈴蘭、ジギタリス、フリージア、クリスマスローズ。それぞれの花の属性を持つイケメン剣士のイメージに沿った洗顔石鹸や化粧水などを作り、ファンに買ってもらうという発想はいいのに、役員達はキョトンとしていたりする。
『推し活コスメ』
フラワー剣士は、この年末に舞台化されて公演される。
『推しと同じコスメに萌える』
この心理について熱く語りプレゼンするが、年配の役員達は共感できないようである。
幸い、感性が若々しい大河内社長は前のめりになり興味を示している。社長の娘が乙女ゲームの熱烈な愛好家なので分かるのだろう。
しかし、今のところ、ゲームのコンテンツとコスメの販売を融合させるプロジェクトは発案の段階で頓挫している。ちなみに、男性用化粧品のブランドを作る事は確定しているのだが、幹部は、やる気がなさそうに見える。ゲイでない男であろうとも、アイラインを入れたり口紅を使うという令和の現実がまるで分かっていない。
(今は化粧男子が多いのに……。ていうか、日本は、昔から、男も化粧する文化があるのに……)
片隅から様子を見守る寧々は参観日の母親のような心境になってきた。
鈴木蓮は熱弁する。
『AIに任せられる部署は、早急に変えるべきです』
最近の若い子は、お化粧バッチリの美容部員と対面するよりもアバターとの会話を介してのやりとりの方が楽だと感じている。これは事実だ。
販売員を生身の人間からAIにチェンジする。それも、出来るだけ早くそうする事で人件費は削減できる。
『今後は、バーチャルな店舗が主流となります。アバター店員を本格的に増やすべきです。ゆくゆくはAIに接客を任せることになります』
鈴木蓮が強く主張しても、彼等は大胆に前に踏み出そうとしない。おじさん達は変化が嫌いだ。
『あまり突飛な変革はリスクがあるからね』
商品企画に携わる者達は興味を持っているが、特に財務は難色を示している。
こうして会議は終わった。その事に苛立ちを覚えたのか、仏頂面のまま執務室に戻ってきた。小腹が減ったのだろう。寧々が作ったクッキーを無造作に食べ始めている。
「あいつら、分かってないよな。死んだばあさんは、ある意味、ゴリゴリの美容オタクで夢見る夢子さんだったんだぜ。そういう意味じゃ、ゲームキャラとの融合は、ばあさんの路線を継承していると思うけどね」
皮肉たっぷりだが、お茶目で愛らしい祖母への愛が滲んでいる。
会長と妻の愛子さんは周囲から反対されて駆け落ちしている。当時の会長は、愛子さんの家庭教師だったのだ。
「じぃさんは苦学生でさぁ、公務員になったんだけど辞めて企業したんだよ」
東大法学部卒の会長はコスメに関しては素人だったが、民法や商法や労働法を学んでおり、特許や知的財産権や契約に関する知識はあったので会社を立ち上げる際に役立った。しかし、製品のクオリティを高める事に苦労したという。
「じぃさんは、ばぁさんが喜ぶ商品を作ることに命をかけていたからなぁ」
市場の動きやお客様のニーズよりも、『愛子ちゃんの好みと感性』を優先させており、パッケージのデザインも愛子さんが選んできた。寧々が退社した直後に愛子さんが癌で亡くなってしまい、会社は創造の源となるミューズを失くしている。
さてさて、今後、どうするのか。
「うーん、でも、あたしは、これまでのマダム路線から逸脱することに反対する人の気持ちも分かりますよ。副社長は、まだ社員から信頼されていません。会長は、仮に香水を作るとなると、国内はもちろん海外の調香師とも接触していました。しかも、御自分で医学雑誌を読んで新成分を勉強しておられましたからね」
「じぃさんは社交的で努力家だった。オレはじいさんのように、取引先の人達や部下と信頼関係を作り上げてない。組織を引っ張るには、やっぱり、じいさんみたいに、色々な知識と経験を積む必要があるようだな」
ちなみに、うちの営業部の男性は女性顔負けの知識を持っている。研究部員の男子などはもっと凄い。自らの皮膚をベースにして様々なものを作り出そうとあれこれと奮闘している。
寧々は真剣な顔で言う、
「あたしの知り合いの営業部の男性は、あたしがつけている香りがシトラス系なのかフローラル系なのかすぐに気付いてましたよ。副社長も、それぐらいにならないと駄目ですね」
「オレは、知識も経験も足りていない。そこは真摯に反省しているよ」
意外にも鈴木蓮は謙虚だ。
(そういう側面を見せないからなぁ。色々と誤解されるんだよね)
化粧品に関しては会長夫人の従弟の開原悟が実権を握っている。少なくとも彼がいる間は大きな路線変更は難しいだろう。
寧々が定時で帰宅するつもりで部屋から出ようとしていると、鈴木蓮が、急に思い出したように告げた。
「あっ、月曜日の午後までに誕生日プレゼントを用意しておいてくれないか?」
「かしこまりました。その方の年齢や御趣味や経歴を教えていただけますか」
取引先の社長令嬢の御機嫌とりに何かを贈るのかと思ったのだが、そうではないらしい。極めて素っ気無い口調で彼は告げた。
「棚部杏さん。大学四年生だよ。二年前、インターンシップでうちの実習を受けたんだ。斬新なビジネスプランを出してくれるし、乙女ゲームに詳しいので、アルファの企画室でアルバイトとして働いてもらっている。彼女の誕生日だから何か渡したい。プレゼントの費用は三千円。棚部さんがいる部署では一律その値段のものを同僚に渡している。とにかく、オレとしては彼女に就職してもらいたいんだ」
「……そんなに優秀なんですか」
すると、鈴木蓮は素直に敬意を示すような顔つきで言った。
「乙女ゲームの推し活の一環としてコスメを売るアイデアは棚部さんのものだ。彼女は消費者のニーズを知っている。でも、残念な事に、彼女の親は娘を就職させるよりも早く結婚させたがっているらしいよ」
「顔見知りならば、副社長がブレゼントをお買いになった方がよろしいのではありませんか?」
「あんたは、相手の萌えのツボを汲み取るのが上手い。あんたが選ぶ方が棚部さんも喜ぶと思うんだ」
「棚部さんはインスタとかブログとかやっていますか?」
「ああ、それなら、ブログをやってたかな」
彼がそこまで褒める人材とは、どんな人なのか。とても興味深い。
「顔写真をブログに載せていますか?」
「いや、顔出しはしてないよ。あっ、去年のクリスマス会の写真ならあるよ。オレも参加した」
それは、ゲーム会社アルファの主要メンバーと寛ぐ姿だった。
服装は保守的だ。髪はまっすぐな黒髪。カラコンや付け睫毛など付けていない。美人という感じでもないが清楚で誠実そうな雰囲気があり優しげだ。
「奥ゆかしい雰囲気の可愛らしい人ですね」
そんな会話を終えた後、定時で仕事を終えていた。運転手さんの車で帰宅するとすぐにジェリーの散歩を行なった。これは寧々にとって仕事というよりも癒しなのだ。
今のところ、鈴木蓮と自宅で接する機会は少ない。食事も別々だ。適切な距離を保って暮らしていくつもりだ。その夜、ベッドで寝転びながら棚部杏という女性の情報を集めることにした。
(へーえ、棚部さんは商学部のマーケティング学科の大学四年生なのか……)
顧客のニーズの把握。広告。カスタマーサポートなど、それらすべてを含めてマーケティングなのだ。戦国時代で例えると、社長は殿様。足軽は派遣社員。そして、マーケティングは軍師のようなもの。
経営者として、優秀な棚部さんのことを繋ぎとめておきたいと思うのも当然だ。
棚部さんのブログを見たところ、好きな小説や漫画について熱く解説していた。それに共感した人達が楽しげにコメントを寄せている。彼女は私生活のこともポツポツと綴っている。幼少期から大学までずっと女子高育ちで、五歳年上の兄は結婚しており、シドニーで暮らしているのだ。
棚部さんは簡素な服装を好み、ブランドものよりも肌に優しいものを選んでいる。
(素朴で透明感のある女の子だな……)
愚痴や悪口をネットに晒さない。賢くて慎ましい女の子だ。仲間達と和気藹々とアニメキャラの推し活をしている。読んでるこっちもホッコリしてくる。
(うーむ。実家は滋賀の和菓子屋さんなのね)
色々と迷いながらも、棚部さんが欲しいと綴っていた蜂蜜を選んだ。寧々自身が貰った事のある商品なので品質も味も間違いない。きっと喜んでもらえるだろう。
月曜の午前中に鈴木蓮に渡すと。彼は、それを持ってゲーム会社へと向かった。
☆
月曜の午前零時。森の向こうから車のヘッドライトが射し込んできた。
寧々はエンジン音に耳を傾ける。いつものように車庫に車を停めると、玄関から台所へと近付いてきた。扉が開いたので、パジャマ姿の寧々がニコッと微笑む。
「おかえりなさい」
「ただいま」
水を飲み干した後、何気なく寧々のノートパソコンを覗き込むと、おやっというように片側の眉を上げた。
「それ、うちの会社の乙女ゲームだな。面白いか?」
「イラストがすごく好きなんですよ。昔は、こういうゲームに興味なかったんです。逆ハーレムなんて馬鹿みたいだと思ってました。でも、今は癒されています。この歳になると擬似恋愛で乗り切るしかありませんからね」
寧々の正直な告白にボソッと小声で告げている。
「卑屈なことばっかり言ってると老け込むぞ。まだ若いんだから希望を捨てずに邁進しろよ」
テーブルを見回したかと思うと、寧々が食べ残している唐揚げをヒョイとつまみ食して頬ばり、。うめぇと子供っぽく呟いている。
(ああ、それ、明日のお弁当の材料にしようと思ってたのにな……)
寧々のことをルームシェアしているオバさんのように思っているに違いない。パジャマ姿でスッピンなのだが、寧々はそれを隠そうとは思わない。
「今日は帰りが遅かったですね。棚部さんの反応はどうでしたか?」
「ああ、喜んでいたよ。会社の有志が集まって彼女のバースデーを祝ったんだ。その後、オレは大学時代の親友の相川と飲んだ。相川と接客アバターについて話したんだが、これから、予算を確保しないといけない。システム構築の費用が嵩みそうなんだ」
言いながらクシャッと片手で髪を掻いている。
「オレのポケットマネーで勝手にやっちまいたいな。オレは、会社のおっさん達を説得するのは向いてねぇんだよなぁ。オレって偉そうにしているように見えるらしいな」
「へーえ、自覚があったんですね? 味方を作るしたたかさも必要ですよ」
そんなふうに言いながら、優しく鼻頭にシワを寄せてクスッと微笑む。
「でも、焦る必要はありませんよ。副社長は会社に必要なことをやろうとしています。改革なくして発展はありえませんよ。まだまだこれからですよ。きっと、いつかはみんながついてくるようになります」
「あんたって、やっぱり、人たらしの天才だな。つーか、オレを待ってないで寝ろ」
「だけど、ここって森や山に囲まれた一軒屋で誰もいないから一人だと怖いんですよ。泥棒が来たらどうしようって不安になります。それに、あなたが事故に遭っていないか気になるんです。こうして、無事な姿を見たら安心して眠れます」
不意打ちを喰らったように鈴木蓮が表情を変えた。そして、なぜか、乱暴にグシャグシャと寧々の頭を撫でながら言った。
「分かったよ。これからは出来る限り早く帰るようにするよ」
顔立ちは少しも似ていないのに、この人は会長に似ている。ほんわりとした日だまりのような空気を感じた瞬間、ポッと温かなものが胸に灯った。ふっと、彼がエコバッグを差し出したのである。
「あっ、そうだ。誕生日、おめでとう」
本人もすっかり忘れていた。三十五回目のバースデー。プレゼントの中身は高級な革のパンプスだった。デザインは少し古めかしいが、それ故に履き心地が良さそうだ。
「サイズが合うかどうか履いてみろよ」
「ピッタリです。なんで、サイズが分かったんですか」
「じぃさんの秘書をしていた頃に愛用していたブランドだ。デパートの外商さんが、あんたの事を覚えていた。測定した足型も残ってた」
「う、嬉しいです。ありがとうございます。この靴、本当に助かります」
「あんた、足の豆に悩んでいたもんな?」
そう言うと、彼は寧々の足元に視線を落とした。寧々の顔は綻んだ。
「じぃさんの事だけど、ずっと意識不明のままなんだ。幸い、命に別状はない。意識を取り戻したら知らせるよ」
「色々とありがとうございます。ほんと、嬉しいです。家族さえも、あたしの誕生日を忘れているんですよ。プレゼントをもらったのって久しぶりです」
「いいから、とっとと寝ろよ」
「あっ、はい。おやすみなさい」
素直にベッドに滑り込んだが眠れそうになかった。少し前の寧々は場末のキャバクラで慣れないお酒を飲みながら精神を擦り減らしていたのだ。
お酒や煙草や嘘やお世辞にまみれて、自分が、どんどん汚れて朽ち果てていくようで辛かった。粘着質な客にストーカーされた時は不眠症になった。でも、今は、心の底から安心して眠れる。
寧々は寝返りを打った。床に視線を落とすと、老犬のジェリーが安らかな寝息を立てていた。
実は、昨日、ジェリーは玄関マットの上でオシッコを漏らしてしまい、そこに鈴木蓮が帰ってきたものだから、ジェリーは脱兎のごとく逃げ出している。
『おそらく、漏らす度に叱られていたんだろうな。ペット用のシーツ以外の場所にオシッコしたとしても、こいつが悪い訳じゃないのにな』
ネクタイを緩めながら苦笑していた。あの時の彼は、怯えるジェリーの頭を撫でようとして寂しそうに手を引っ込めてる。クールそうに見えていい人なのだ。最初の出会いは最悪だったけれども、今のところ上手くやれている。
秘書として精一杯頑張ろうと決意をしていたのだが、恋の嵐は、すぐそこまで迫っていた。