光王子と月夜のシンデレラ
パーティーが始まって1時間弱。
私はビュッフェの料理を食べながら、壁際で会場内の観察を続けていた。
けれど、未だに間違えは見つかっていない。

今宮くんは私のように変装しているわけではないので、成沢くんと松永くんをはじめ、色々な友達が寄ってきては談笑している。
対する私は、変装のおかげもあってほぼ話しかけられずにいる。

「あ、喫茶ナポリだ……」

ビュッフェエリアの一角に、屋台のように喫茶ナポリが出張営業しに来ている。
ここのナポリタン、今宮くんに作ったっけ……随分前のことに感じる。

「食べようかな……」

ナポリタンのソースはこの衣装の天敵な気もするけれど……食欲には代えられない。
注文した時、後ろから声をかけられた。
この声は――間違えない、今宮くんだ……どうする。

「ここのナポリタン好きなんですか?」
「あ……はい」
「美味しいですよね」

そっか……変装しているから私だって気づいていないのか。
合わせて、知らない人のスタンスでいけばいいから私もそんなに身構える必要はないかもしれない。
一人でいるのも寂しいし、会話を楽しんでみようかな、なんて思いながらパスタを口に運ぶ。

…………!

「どうかしました?」
「あっいえ……相変わらず美味しいなって」

間違え……これだ、味が違う。

けれど……微量な違いだから今宮くんはさすがに気が付かないと思う。
もしこれが正解なら、今宮くんの合格のためにも教えてあげたい。
……ただ、その時点で私の正体がバレることになる。

とりあえず、壁際でナポリタンを頬張る。

「ふっ……」
「?」
「すみません、あまりに可愛らしく頬張っているから」
「お恥ずかしい……限りです」
「いえ、先ほどまでの可愛らしさとはまた別で、いいと思います」

私に言われていたら嬉しいけれど……今は変装中。
そっか……今宮くんはこういう可愛い女の子が好きなんだ……
また心臓がぎゅっとなる。

「おー今宮、楽しんでるか?」
「田中先生」
「来賓の方か?可愛い人連れて」
「はい、素敵だなって声かけていました」
「そうか、楽しめよー!」

お酒も入って陽気な田中先生が去って行った。
今宮くんの発言に胸は苦しいけれど、今は試験中。集中しよう……

残りは約2時間。
試験は個人戦……バレてはいけない……どうする。

「何か悩み事ですか?」
「あ、いえ……」
「難しい顔をしていました。僕の大切な人もそうなんです」
「え……」

今宮くんが私の顔を覗き込んで、優しい顔で微笑んでいる。

「大切な人……?」
「はい、いつも1人で抱え込んで、無茶をして……でも真っすぐで勇気をくれるんです」
「へえ……素敵な方ですね」
「でも、酔っ払いに可愛いって言われて喜んだり、違うのに天の川だって言い張ったり、夏だからって夜に薄着で海に行ったり……困ったさんなんです」

それって……
大切な人……?……いや悪口?

「僕はそんな彼女をずっとそばで見守り、助けたいって思っているんです。向こうはこれっぽっちも僕を意識していないんですけどね」
「そ、そんなこと……ないと思います。きっと彼女さんも同じ気持ちで……あなたのそばにいたい、特別になりたいって思っていると思います……」

恥ずかしすぎて顔を上げられない。
なぜ今の他人の私に言うのだろうとか、思うこともあるけれど……けれど……

そんな風に想ってくれている、世界で一番大切な今宮くんを……私が一番大切にしたい。

よしっ!
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