先にあなたが捨てたのです。さようなら、陰の王家と呼ばれた一族は隣国にお引越しします

エグバード様と私の十五年間

「はじめまして、ルルシャ」
 頬を赤くした金髪碧眼の美少年が、はにかみながら挨拶をしてきた姿をはっきり覚えている。
 あれはエグバード様が四歳、私が七歳の時だった。
 その日、公爵家の一人娘である私は、父親に連れられて王宮を訪れていた。
 そして、美しい花が咲き乱れる庭園で、一人の少年に引き合わされた。
 エグバード・ゼイロット。
 柔らかな金髪に青い目をした端整な顔立ちの少年で、私たちが暮らすゼイロット王国の唯一の王子殿下だ。
 ゼイロット王国は中規模の国ながら、精霊の加護を与えられた国として繁栄し、周辺諸国に比べて平和で穏やかな生活を送ることができていた。
 そして、エグバード様はそんな我が国のただ一人の王位継承者として、大切に育てられていたものの、王宮からほとんど出ることがなかったため、同年代の友人は一人もいなかった。
 だから、彼はすぐに私に懐いてくれた。
「ルルシャはとても美人だよね。赤いかみは炎が流れているようだし、緑の目は宝石みたいだ。じじょたちが、ルルシャはいずれ国いちばんの美人になると言っていたよ」
 素直な褒め言葉に私はにこりとする。
「エグバード様は私の容姿がお好きですか?」
「すき!」
「私もエグバード様が笑っている姿が大好きです」
 その日以降、私は頻繁に王宮を訪れるようになったけれど、それはエグバード様のはにかんだ微笑みを見たかったからだ。
 エグバード様にはいつだって笑っていてほしいと思ったけれど、それから数か月後、彼は豪奢なベッドの上で物言わぬ人となった母親に縋(すが)り、泣きじゃくっていた。
「ルルシャ、お母様が死んだ……正妃に殺されたんだ!」
 エグバード様のお母様は、身分の低い子爵家出身だった。
 だから、いつだって正妃様を立て、第二妃として一歩引いていたけれど、国王の一粒種を産み育てていることが、正妃様には我慢ならなかったらしい。
「お母様、私を置いていかないで! 私も一緒にお母様のところにいくから! どうか一人にしないで」
 エグバード様の声は悲しみに満ちていて、聞いているだけで胸が張り裂けそうだった。
 だから、私はエグバード様を抱きしめると、心から誓ったのだ。
「お母様と一緒にいかないでください。この世の全てから、私がエグバード様を守ってさしあげます」
 それは、とても重い誓いだった。
「ルルシャが私を守ってくれるの? いつまで?」
 涙を流しながら真剣に尋ねてくるエグバード様に、私も真剣に答える。
「エグバード様が私を隣に置いてくださる間はずっとです」
「だったら、どちらかが死ぬまでだ! 私はルルシャと結婚する。そして、ずっと二人で一緒に暮らすんだ。幸せに、死ぬまで」
 それはとても可愛(かわい)らしいプロポーズだった。
 私はエグバード様を抱きしめると、彼と結婚の約束をした。
 そして、半年後の彼の五歳の誕生日に婚約した。
 それは私が八歳の時のことだった。
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