先にあなたが捨てたのです。さようなら、陰の王家と呼ばれた一族は隣国にお引越しします

大物オーラの超絶美形

「ルルシャちゃーん、今日も超絶美人だね!」
 お客のテリーさんがにこにこしながら一輪の花を差し出してきた。
 テリーさんは黒髪黒瞳の童顔の男性で、ジンさんと同じく常連さんの一人だ。
 私より年下かしらと思っていたら、五歳年上だと聞いて驚いたことは記憶に新しい。
 一週間に一度は髪を切りにきてくれるので、少しでも髪が伸びるのが嫌なタイプなのだろう。
「ルルシャちゃんを初めて見た時、オレの体に雷が落ちたんだよ! ルルシャちゃんみたいな完璧な造作は神様の芸術品なんだ! 神様だって二度と同じものを作れはしないってね!!」
 両手で拳を作り力説するテリーさんを見て、いつも通り調子がいいわねと話半分に聞いていたけれど、話全部を真面目に受け止めたらしい長兄がドスのきいた声を出した。
「おい!」
 据わった目で睨み付けてくる兄は恐ろしいはずだけれど、テリーさんは平気なようでへらりとして続ける。
「と思っていたら、お兄さん二人も同じ超絶美形だったから、血って恐ろしいよね」
 長兄はちっとも怖がらないテリーさんが気に入らないようで、さらに恐ろしい声を出した。
「てめえ、ルルシャに気安く話しかけてんじゃねえぞ! ボコるぞ」
 ブラッドリー長兄は三か月前まで、王国一の公爵家の跡取り息子で、完璧なマナーを身に付けていると評判だった。
 それなのに、たった三か月でこんなに柄が悪くなるなんて、一体どういうことかしら。
 私とは違いテリーさんは一切事情を知らないはずだけれど、そんな彼にとっても長兄は十分柄が悪く見えるようで、呆れたように顔をしかめられた。
「大兄さんは酷(ひど)い言葉遣いだねー。こーんなおっかない男性を見かけた場合、普段だったら絶対に近寄らないんだけど、ルルシャちゃんと同じ顔だと思うと、どうしても愛情が湧いちゃうんだよねー」
「テリーさんったら調子がいいんだから。さあ、シャンプー台に座ってちょうだい」
「ぐうっ、相変わらず冷酷! オレが必死でアプローチしているのに、歯牙にもかけないその冷たさが好き」
 いつも通りふざけているけど……恐らく、テリーさんも貴族なのよね。
 どうしてこのお店には貴族が集まるのかしら。
 ブラッドリーお兄様を見る限り、柄が悪くて、とても貴族御用達になるようなお店には見えないはずだけれど。
「はー、相変わらずすごいね。デトックスというか、髪を洗われるのと同時に、体に溜まっていた悪いものが全部排出されていくよ」
 気持ちよさそうに目を瞑るテリーさんの頭を洗いながら、私は笑みを浮かべる。
 こっそりお手伝いをしてくれている小さな洗髪精霊も、にこりと微笑んだ。
「ありがとう。他のお客さんにも同じことを言われるわ」
「だよねー、オレは今度ぜひルルシャちゃんの他のお客さんたちと話をしてみたいよ。ルルシャちゃんは可愛い、ルルシャちゃんは天使の手を持っている、と意気投合すると思うんだよね」
「まずは私の兄たちと話をしてみるのはどうかしら? 兄たちは私のことを可愛がってくれているから、意気投合するかもしれないわよ」
「あはー、やっぱり冷酷! ルルシャちゃんは笑顔でオレを、大鬼と中鬼が揃った穴に突き落とす気だよ」
 精霊がご褒美のクッキーを持ってペンダントの中に消えていくのを、横目で確認する。
 それから、泡をすすぎ終わってすっきりしたテリーさんの髪を整えていると、次兄が小さな紙袋を差し出してきた。
「ルルシャ、テリーは僕が引き受けるから、これを孤児院に届けてくれないか」
 それは定期的に孤児院に届けている洗髪剤だった。
 孤児院にボランティアで子どもたちの髪を洗いに行ったところ、とてもいい匂いがすると、子どもたちが洗髪剤を気に入ってくれたのだ。
 それ以来、洗髪剤が切れたと思われる頃に、定期的に兄妹の誰かが届けるようにしている。届けた人の洗髪付きで。
 どうやら今回は私の番のようだ。
「ええー、勘弁してよ。ルルシャちゃんの天使の手で髪を整えられるのと、中兄さんの鬼の手で髪を整えられるのでは、天と地ほどにオレのテンションが違ってくるんだよね」
「お前、いくら僕が気に入っているにしても、その言い方はルルシャに失礼だぞ!」
 ぴしりと注意した次兄に向かって、テリーさんは間髪をいれずに言い返す。
「いやいや、絶対に分かって言っているよね! どう考えても、オレが気に入っているのはルルシャちゃんでしょ。何でオレが中兄さんに髪を整えられてテンションが上がるんだよ!!」
「お前が僕を見る目つきには、並々ならぬものがあるとずっと思っていたからな」
「ちょ、止めてくれない! ルルシャちゃんの前でわざと、オレの好感度を下げようとしているよね!!」
 次兄はぎゃあぎゃあと文句を言うテリーさんを丸っと無視すると、私に紙袋を手渡した。
「ルルシャ、頼んだぞ」
「任せてちょうだい。じゃあ、後はお願いね」
 私はお店のことを兄二人に頼むと、文句を言い続けているテリーさんに手を振って、孤児院に向かったのだった。
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