あなたの隣に私は必要ですか?

3

 
「ミーア・シャルベルト第三王女殿下ならびに、ルートヴィッヒ・エルンザーレ小侯爵様、お入りになられます」
 
 その告知にパーティ会場内にざわめきが走る。

「何故あのお二方が?」
「エルンザーレ侯爵子息は、ミーア王女の護衛騎士だと聞いたが?」
「エルンザーレ侯爵子息には、婚約者の方がいらっしゃったわよね?」

 それぞれがそう考えながら、最終的な視線がアリーシアに注がれる。
 会場内のそんな雰囲気など、ものともせず、ミーア王女はとても嬉しそうにルートヴィッヒのエスコートを受けながら会場内に入ってきた。

 ミーア王女のドレスは、立体感のある花をモチーフとした刺繍が全体に施されており、繊細なレースで透け感を演出し、豪奢な印象を与えているAラインのドレス。そのドレスの色は、ルートヴィッヒの瞳の色と同じ翡翠色だった。
 対して、ルートヴィッヒは正装騎士服で参加している。
 周りの興味津々な視線など気にも留めず、寡黙でニコリともしない彼は、ミーア王女をエスコートしながら、ただミーア王女を守る姿勢を崩さない。
 その姿は、見る人によっては真実の愛で結ばれた恋人達のようにも感じられた。

「あの野郎、なにしてやがる」
 アリーシアの隣にいるルーカスが、低く唸るような声でルートヴィッヒを睨みつけながら、一言発した。

「お兄様、王女様の御前ですわよ」

 アリーシアは、怒り狂う兄を制しながら、そっと二人を垣間見た。
 自然と人々が左右に割れ、二人の通る道が出来る。
 その中を、寄り添うようにしながら会場の中央付近まで歩いている。
 その姿を見ながら、アリーシアの心はズキっとした痛みを感じた。
 あまりに見すぎたのだろうか。
 ふいにルートヴィッヒがアリーシアのいる方に視線を向けた。
 アリーシアと目が合い、そのまま二人の視線は交わしたままの状態となる。
 ルートヴィッヒが自分の方を向いていないと気付いたミーア王女は、ルートヴィッヒの視線の先を追い、アリーシアの姿を見つけた。

「ルディ? あの方は?」

 ミーア王女がルートヴィッヒにそう尋ねた。
 周りの人々は、ミーア王女がルートヴィッヒを愛称で呼んだ事に驚きを隠せない。
 もちろんそれは、アリーシアやルーカスにも聞こえていた。

「私の婚約者でございます、ミーア王女殿下」

 ルートヴィッヒは恭しくそう答える。
 その答えを聞いたミーア王女は、目を細め、視線を鋭くアリーシアに向けた。

「ルディ、あなたの婚約者を紹介して下さるかしら」

 そう言って、アリーシアの方に向かって歩き出す。
 その様子に、ルートヴィッヒは小さくため息を吐いた後、ミーア王女に続くようにアリーシアの元に向かった。
 
「ミーア王女殿下、こちらが私の婚約者であるアリーシア・フォンベルタ侯爵令嬢でございます」
 ルートヴィッヒからの紹介を受けたアリーシアは、ミーア王女殿下に向けてカーテシーを行う。

「お初にお目にかかります。フォンベルタ侯爵の娘、アリーシアにございます」

 アリーシアの挨拶を受けたミーア王女は、すぐには返事をせず、アリーシアを値踏みするように、じっくりと見る。
 それからゆっくりと返事をした。

「そんなに畏まらなくてよろしくてよ。顔を上げなさい。わたくしはミーア・シャルベルト。この国の第三王女よ。あなたの婚約者であるルディには、いつも良くしてもらっているの」
 牽制するように、わざと愛称呼びをするミーア王女に、ルートヴィッヒは顔を顰めるが何も言わない。

「左様でございますか」
 アリーシアは、それ以上余計な事は言わず、ミーア王女の言葉を受容した。

「……それだけ?」

 ミーア王女が低い声で一言そう言ったが、アリーシアはそれ以上の言葉が見つからず、目を伏せた。

「……まぁいいわ。とにかく、ルディには護衛兼今日のエスコートを頼んでいるの。構わないわよね?」

 勝ち誇ったように言うミーア王女に、隣りにいるルートヴィッヒは、またしても何も言わない。
 ただジッとアリーシアを見ていた。
 
「ミーア王女殿下の仰せのままに」

 ミーア王女は、畏まってそう答えるアリーシアに、面白くなさそうな表情をした。

「ルディ、行きましょう」

 そう言ってミーア王女は、ルートヴィッヒを伴って、アリーシアの元から離れた。
 その二人の後ろ姿を見ながら、アリーシアは思う。
 いつも自分はルートヴィッヒの背中を見送っている。
 自分ははたして、ミーア王女のようにルートヴィッヒの隣に並んで歩いたことがあっただろうかと。

「アリー」
 
 自分を呼ぶルーカスの声に、アリーシアはハッとした。

「アリー、辛いなら父上や母上に話そう。結婚前からこれでは、アリーが不幸になるだけだ」
 ルーカスは諭すようにアリーシアにそう言った。

「お兄様……。そうですね、少しばかり辛いです」

 アリーシアは、正直な気持ちを話す。
 かつて、ルートヴィッヒがまだミーア王女の護衛でなかった時、不器用ながらもアリーシアとの時間を大切にしてくれていた。
 しかし、ミーア王女に見初められて護衛騎士となってからのルートヴィッヒは変わってしまった。
 常にミーア王女を優先し、アリーシアと過ごす時間を蔑ろにしているような印象を受けていた。
 そんな事を思い返し、これから先のルートヴィッヒの未来に、自分は隣に立っているのか不安に思う。

「でもお兄様。お父様やお母様にお話する前に、もう一度ルートヴィッヒ様とお話してみます」
「アリーがそう言うなら、もう少し様子を見るけれど……。でも、こんな状態が続くような、ちゃんと相談しろよ。父上や母上もお前の幸せを願っているんだからね」
「はい。ありがとうございます、お兄様」

 アリーシアはもう一度、ミーア王女と共に行ってしまったルートヴィッヒを見ながら、これから先の未来が描けなくなっている事に気づき始めていた。
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