あなたの隣に私は必要ですか?
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「お父様! どうしてわたくしをルディのところに降嫁させていただけないのですか!? わたくし、こんなにルディを想っておりますのに!」
父王であるシャルベルト国王陛下に、ミーア王女は訴えた。
国王は、再三の訴えをしてくるミーア王女に、辟易したようにため息を吐く。
「またか。何度言えば分かるのだ。ルートヴィッヒにはすでに婚約者がいるであろう」
「そんなもの、名誉を考えればわたくしが降嫁した方がエルンザーレ侯爵家も喜ぶはずです! すぐにフォンベルタの娘とは婚約解消となりましょう!」
ミーア王女の発言に、国王は頭を抱えた。
「何を言っている。そんな不条理な事、王家自らがするなど下の者に示しがつかぬわ。それに、お前も分かっておろう? お前はもうすぐ隣国に……」
「なぜわたくしなのですか!? わたくしは、行きたくありません!」
ミーア王女はそう叫ぶと、すぐに身を翻してその場から立ち去ってしまう。
国王陛下の御前にて、そのような無作法は普通なら咎められるところだが、ミーア王女に関しては許されていた。
「陛下、ミーアが申し訳ございません」
ミーアの母である側妃も、心苦しい気持ちで国王に頭を下げる。
「いや、よい。あれも王族。致し方の無いことと本当は分かっておろうて。頭では分かっていても、心が納得出来んのであろうな」
国王の言葉に、側妃も悲し気に頷いた。
ミーア王女は自室に戻ると、部屋で待機していた侍女たちを追い出す。
一人になったミーア王女は、ベッドに倒れこむと悔しさで枕を壁に放り投げた。
「なぜわたくしが隣国に行かなければならないのよ! わたくしはただ好きな人と一緒に居たいだけなのに……」
じわりと涙が溢れだし、ミーア王女はふと先日夜会で会ったルートヴィッヒの婚約者を思い出す。
そして、部屋の外に待機させていた侍女を呼び戻し、告げた。
「フォンベルタ侯爵令嬢をわたくしのお茶会に招待するわ。招待状を準備なさい」
そう命令すると、違う侍女に色んなドレスを準備させる。
「お茶会に来ていくドレスを選ぶわ。それとお茶会での護衛はルディじゃない騎士をつけてちょうだい」
ミーア王女は思いつめた表情でそう命令した。
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「ミーア王女からの招待状ですって?」
アリーシアの母であるフォンベルタ侯爵夫人は、目を丸くしてアリーシアに尋ねた。
「はいお母様。明日行ってまいります」
「お茶会にお呼ばれするなんて、あなた面識があったの?」
「あ……先日の夜会で初めてご挨拶をさせていただきました」
少し言いにくそうに言うアリーシアに、フォンベルタ侯爵夫人は敏感に何かを感じ取った。
「その場にルートヴィッヒ様はいらっしゃったのかしら?」
母の質問にアリーシアが返答をしかねていると、いつの間にか二人の会話を聞いていたルーカスが代わりに答えた。
「この前の夜会でルートヴィッヒ殿はミーア王女のエスコート役を引き受けていましたよ」
「まぁ! 婚約者であるアリーシアには夜会にいけないと言っておいて!?」
ルーカスの言葉を受けて公爵夫人は怒りをあらわにする。
「お母様。ルートヴィッヒ様はあくまで護衛が主であったと思います」
アリーシアが庇うも、ルーカスが顔をしかめて反論する。
「ミーア王女に”ルディ”なんて愛称呼びを許していたじゃないか。アリーすら呼んでないのに」
「そ、それは……」
ルーカスの言葉に、アリーシアは言葉が続かない。
「これは、少し考えないといけないかもしれませんわね。お父様にもこのことを話しますからね」
「え!? でも、この婚約は両家にとって大切なものではないですか。ルートヴィッヒ様とは次のお茶会でちゃんと話しますから!」
アリーシアは母の言葉に驚いて、慌ててそう言った。
そんなアリーシアの手を取り、侯爵夫人は優しく言う。
「娘が不幸になると分かっている結婚なら、無理に薦めませんよ。あなたはわたくし達の大切な娘なのですからね」
「お母様……」
アリーシアは母の言葉に、心がじわりと温かくなるのを感じていた。
「とりあえず明日は、ミーア王女に失礼のないようにしながら、上手く対応なさい」
「はい。お母様」
アリーシアは母の言葉にうなずくと、明日の準備のために自室に戻った。
その様子を侯爵夫人とルーカスが見送ったあと、ルーカスが問う。
「母上、僕の思い違いかもしれませんが、確かミーア王女は20歳になったら隣国に嫁ぐ予定だったのでは?」
「ええ、そうよ。大々的な発表はまだされていませんが、うちのような小国では、大国である隣国との繋がりを不可欠ですからね。確かあちらの王太子の側妃となる予定だと聞いていますね」
「そうですよね? 前にミーア王女が隣国に行ったのも、顔合わせが目的だったはず。もしかしてその時、ミーア王女はあちらの王太子の側妃になるのが嫌だと感じる出来事でもあったのでしょうか」
「お父様にきちんと確かめてもらわないといけませんわね。隣国へ嫁ぐことは決定事項だとしても、嫌がるミーア王女が嫁ぐ際、護衛にルートヴィッヒ様も連れていくことを条件に出すかもしれませんし」
「まさか! ルードヴィッヒ殿はエルンザーレ侯爵家の跡取りですよ?」
「そんなもの、遠縁から養子をもらうなどして何とでも出来るでしょう。陛下がミーア王女の要望をどこまで許すかでしょうね」
「そんな……うちとの婚約をなんだと思っているんだ!」
「そのことを含めて、お父様と話しましょう」
侯爵夫人とルーカスは、明日ミーア王女のお茶会に呼ばれているアリーシアを心配しながら、そんな会話をしていた。