あなたの隣に私は必要ですか?
5
「ようこそわたくしのお茶会へ。フォンベルタ侯爵令嬢」
ミーア王女のお茶会に招かれたアリーシアは、たった二人だけのお茶会だと知って驚いた。
「お招きいただき、大変光栄に存じます。本日はよろしくお願い致します」
驚きを必死で隠しながらアリーシアは丁寧に挨拶を行なった。
そんなアリーシアに、ミーア王女はクスリと笑う。
「驚いたかしら? 今日はあなたとじっくり話してみたくて、他の人の参加は遠慮してもらったのよ」
「さ、さようでございますか」
アリーシアは一抹の不安を覚えながら、必死でそう答えた。
やがて、アリーシアの前にほんのりと甘い香りのするお茶が運ばれる。
「わたくしのお気に入りのお茶なの。大切な人の領地で採れたお茶だから、あなたも飲んでみて」
アリーシアは促されたお茶を一口飲む。
(わたくしはこのお茶をよく知っていますわ。わたくしの愛用のお茶ですのもの。それにしても今ミーア王女は”大切な”って言いましたわ。やはり……そうなのですね)
「とても美味しゅうございます」
アリーシアはその言葉には触れず、感想だけを述べる。
「どこの産地か知りたい? わたくしは、そこから直接ある人に持ってきてもらっているの。いつも素敵なメッセージカード付きでね」
(メッセージカード? あの方はそんな細やかな配慮をする方だったの?)
ミーア王女の言葉に、アリーシアは少なからずショックを受ける。
そんなアリーシアの様子を見て、満足そうにミーア王女は微笑んだ。
「そうそう。その人ね、いつもわたくしを大切に想ってくれていて、わたくしと離れたくないそうなの。でも、その人には政略で決められた婚約者がいてね。貴族としての義務と、真実の愛の狭間でとても苦しんでいるの」
ミーア王女は、アリーシアを見据えながら話し出した。
アリーシアはミーア王女の言葉に、ドキッとする。
(これはきっと……いえ、絶対ルートヴィッヒ様の事を話していらっしゃる。あの方は、そんなに苦しんでいらっしゃるの?)
アリーシアは、そう考え出すと居てもたってもいられなくなった。
この場合、邪魔者は自分で、真実の愛で結ばれた二人はミーア王女とルートヴィッヒ様。
(やはりわたくしが身を引かなくてはならないのですね。お父様、お母様。申し訳ございません)
王女にこのように言われてしまえば、臣下であるフォンベルタ侯爵家は退かなければならない。
アリーシアは、自分の不甲斐なさを感じながら、ミーア王女に自分の考えを伝えようとした。
「ミーア王女殿下。よく分かりましたわ。この場でわたくしの一存では何も言うことは出来ませんが、家に帰り、両親とこの件について話し合い、ミーア王女殿下のお気持ちに沿うような……」
「アリーシア」
アリーシアが話している言葉に被せるように、突然アリーシアを呼ぶ声がした。
振り向くと、そこにルートヴィッヒが少し息を切らしながら立っている。
「ミーア王女殿下。これはどのような状況なのでしょう? 私の婚約者とお茶会をするなど、私は聞いておりませんでしたが」
少し強めの語尾でそう聞いたルートヴィッヒに若干怯みながらも、ミーア王女はとぼけたように返答する。
「あら。わたくしがお茶会を開くのに、ルディの許可が入りまして?」
「護衛上、報告はして頂かないと困ります」
「この時間の護衛は別の者にさせているから大丈夫よ。あなたは訓練があるでしょう?」
「いつも私の訓練の時間など、気にしておられないはずですが」
寡黙なルートヴィッヒがこんなに話すところを見た事がないアリーシアは、ルートヴィッヒの登場よりも驚いていた。
(やはり気の許せる相手だと、こんなにもお話してくださるのですね。わたくしとは会話が続かないのに……)
そんな事を考えて、さらに落ち込むアリーシアに声が掛かる。
「フォンベルタ侯爵令嬢、今日はとても有意義な時間を過ごせましたわ。あなたのお気持ち、ぜひ形になるといいですわね。わたくしも楽しみにしていますよ」
ミーア王女はそう言って立ち上がり、お茶会を早々に切り上げた。
「さぁ、ルディ。戻りますわよ」
そう言ってミーア王女はルートヴィッヒを連れて戻ろうとする。
しかし、ルートヴィッヒは首を横に振り、アリーシアの側に立った。
「いえ、まだ私の護衛の時間ではございません。今は別の者が王女殿下の護衛についておりますゆえ、私は婚約者を見送りに行きます」
「えっ!?」
ルートヴィッヒの申し出に、ミーア王女は驚きを隠せない。
その間に、ルートヴィッヒはアリーシアを促した。
「馬車留めの所まで送ろう」
ルートヴィッヒの申し出に驚きながらも、アリーシアは何とか平静を保ちながら頷き、ミーア王女に退席の挨拶をする。
「ミーア王女殿下、本日は本当にお招き頂き、ありがとうございました。わたくしはこれにて御前、失礼させていただきます」
カーテシーにて挨拶を終えた後、エスコートの手を差し伸べてきたルートヴィッヒの手を取る。
二人は並んでミーア王女の視界から遠ざかっていくのを、呆然としながらミーア王女は見ていた。
