あなたの隣に私は必要ですか?

8

 いよいよルートヴィッヒが、フォンベルタ侯爵家へと訪れる日を迎えた。
 朝から緊張しながら待っていたアリーシアに、ルートヴィッヒの来訪の報せが届く。
 アリーシアは、意を決しながらルートヴィッヒが待つ応接室へと向かった。

「お待たせ致しまして申し訳ございません。ようこそお越し下さいました」
「いや、大丈夫だ。それよりも定例会の日以外で押しかけてしまい、申し訳ない」

 ルートヴィッヒはそう言って軽く頭を下げたあと、前のソファに腰掛けるようアリーシアに促す。
 アリーシアは対面にて座り、改めてルートヴィッヒを見ながら思った。

 (別に定められたお茶会の日以外に来て頂いても大丈夫ですのに……。思えばこの方は、今までも決まった日以外に会おうとはされなかったわ)
 もう諦めているというのに、まだ傷ついている自分に気付き、アリーシアは自嘲気味に微笑んだ。

「それで、本日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょう?」
「あぁ。君に急ぎ話したい事があったのだ」
 
 アリーシアの質問に、真剣な表情でルートヴィッヒが答えた。

「君も先日お会いしたが、私の護衛対象のミーア王女殿下についてだ」
「……はい」
「ミーア王女殿下はもうすぐ20歳の誕生日を迎えられる」
「……はい」
「ミーア王女殿下が20歳になられると、結婚する」
「……はい?」

 アリーシアは突然のその言葉に唖然とした。
 (わたくしとの婚約もまだ継続中ですのに、すでに結婚の約束を?)

「そして隣国に行かれる」
「え?」
「ミーア王女殿下が無事、隣国へ嫁がれるその日まで、私はミーア王女殿下の想いに付き合ってほしいと陛下に頼まれていた」

 (何を仰っておられるのでしょう? さっぱり分からないですわ)
 アリーシアは話の筋がまるで見えないことに困惑した。

「ようやくミーア王女殿下の輿入れの日取りが決まったから、お役御免の許可を頂いたのだ。君には今まで礼を欠いた事、本当に申し訳なく思っている」
 ルートヴィッヒはそう言って、改めて頭を下げて謝罪した。
 
(これはどういうことなのでしょう? ルートヴィッヒ様はミーア王女殿下と隣国に行かれるっていう話なのでしょうか)

 アリーシアは思い切って自分の考えをルートヴィッヒにぶつけることにした。

「あの、ルートヴィッヒ様」
「なんだろう」
「ルートヴィッヒ様とミーア王女殿下は想い合っておられるのですよね? ミーア王女殿下が隣国に輿入れが決まったのでしたら、わたくしとの婚約は破棄して、ご自分も隣国に行かれるということでしょうか?」

 アリーシアの発言に、ルートヴィッヒは怪訝な表情をする。

「ミーア王女と想い合ってなどいない。確かにミーア王女は私のことを憎からず思ってくださっていたようだが、ご自分は隣国に嫁ぐ身であることは十分承知しておられたのだ」
「あの……では、ルートヴィッヒ様はミーア王女殿下には着いていかれないということでしょうか?」
「もちろんだ。君という婚約者がいるのに、何故私がミーア王女についてゆかねばならない。それに私はエルンザーレ侯爵家の跡取りでもあるから、陛下にもきっぱりとお断りしていた」

 (あ。話には出たことがあるのですね……)

 しかし、全く要領を得ないルートヴィッヒの言葉に、アリーシアは一つ一つ質問し、ようやく理解することが出来た。
 要は、半年前。輿入れ先の隣国に顔合わせに向かったミーア王女は、嫁ぐ予定であった隣国の王太子にあしざまに扱われ、侮辱されたらしい。
 もともと隣国の王太子の評判は最悪で、女好き。正妃はもちろん、側妃も二人いて、もしミーア王女が嫁ぐなら、第三側妃としての立場となるのだそうだ。そんな王太子にて、その地位を狙う他の王子たちの苛烈な継承権争いが水面下で行われており、巻き込まれるのは想像にかたくない。
 そのことを懸念したこの国の陛下は、隣国に王太子ではなく、継承権争いから退いている王子に嫁がせてほしいと隣国に働きかけていたそうだ。
 しかしその話も難航しており、自暴自棄となったミーア王女は、隠していたほのかな恋心を爆発させた。
 そのお相手がルートヴィッヒ様だったそうだ。
 隣国への輿入れは決定事項であり、王太子への輿入れが免れないならミーア王女があまりにも不憫だと、ミーア王女が隣国に嫁ぐその日まで、ミーア王女の想いをプラトニックな形で受け止めてやってほしいと陛下に頼まれたそうな。
 そしてその間、ミーア王女の攻撃がアリーシアに向かないようにするため、敢えてアリーシアとの交流を少なくし、王女を優先していたようだ。
 だから、この前の夜会であのような形で王女とアリーシアが出会い、まして二人だけのお茶会を開いていたと聞いたときは肝が冷えたのだそう。

「ようやく理解できましたわ。ルートヴィッヒ様は、わたくしとの婚約は継続する意思がおありだったということですね」
「もちろんだ!」

 アリーシアの言葉に、食い気味にルートヴィッヒは返答した。
< 8 / 10 >

この作品をシェア

pagetop