あなたの隣に私は必要ですか?
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「それで今日こそ、私たちの結婚式の日取りを決めたいと思い、その相談に参ったのだ」
「まぁ! 覚えてくださっていたのですね」
アリーシアは、てっきりルートヴィッヒは結婚する意志がないと思っていたので、まさかルートヴィッヒから結婚式の話を出されるとは夢にも思っていなかった。
しかし、ルートヴィッヒはアリーシアの言葉にショックを受けたようで、動揺するように叫んだ。
「当たり前だ! 君と結婚する日をどんなに心待ちにしていたことか!」
「え?」
「あ……」
しまった!という顔をして、ルートヴィッヒは顔をそむける。よく見ると、顔が真っ赤になっていた。
その様子をまじまじとアリーシアが見ていると、バツの悪い顔で唸るようにルートヴィッヒが口を開く。
「その……子供だと思っていた君が、必死に私に合わせようと背伸びしながら自分を磨いている姿をずっと好ましく思っていた。早く君を妻にしたいと思うほどに……」
その言葉を聞いたアリーシアの顔も一気に真っ赤に染まる。
(その言葉は反則です! まさかルートヴィッヒ様がそのように想ってくださっていたなんて……!)
あまりの嬉しさにアリーシアは言葉が出ない。
その様子をルートヴィッヒは、少し悲し気な表情で見ながら言葉をつづけた。
「すまない。こんな想いは君には迷惑だろう。もし今までの私の言動で、この結婚に気が進まないのなら言ってほしい。君が望むなら、この結婚は白紙に戻せるよう働きかける。もちろん君に不利益が及ばないようにすることを誓おう」
ルートヴィッヒの言葉に、アリーシアは不満を募らせた。
「ルートヴィッヒ様は、わたくしの言葉ひとつでわたくしたちの結婚をなかったことに出来るのですか? そんな簡単な思いだったということでしょうか」
「まさか! もちろん君が嫌だと言ったら、土下座してでも君の許しを乞うつもりだった!」
「では、冗談でも結婚を白紙など言わないでくださいませ」
アリーシアは、そう言って一呼吸おいた。
「だって、わたくしも一日も早くルートヴィッヒ様のもとに嫁ぎたかったのですから」
アリーシアの言葉を聞いたルートヴィッヒは目を見開き、そして蕩けるほど甘い表情でアリーシアの名前を呼んだ。
「アリー。ずっと君をこの愛称で呼びたかった。今更だけれど、呼んでもいいか?」
「はい、もちろんです」
アリーシアはルートヴィッヒに愛称で呼ばれ、ようやく結婚ということに現実味を感じていた。
「では、アリーも私のことをルディと……」
「お断りします」
「え?」
ルートヴィッヒの提案に被せるように断ったアリーシアに、ルートヴィッヒはビックリする。
「な、なぜ……愛称呼びは嫌か?」
不安そうにそう聞くルートヴィッヒだが、次のアリーシアの言葉にまたも表情が崩れる。
「ミーア王女殿下と同じ呼び方はお断りいたします。わたくしだけの呼び名を……そうですわね、ルーイはいかがでしょう?」
「ああ! それで呼んでほしい!」
間髪入れずに同意するルートヴィッヒに、アリーシアは苦笑した。
(寡黙なルートヴィッヒ様は何処にいかれたのでしょう。きっと、このお姿が本当のルーイなのですね)
アリーシアはまたルートヴィッヒの違う一面を知れたことに、とても嬉しく思った。
「しかし、今までの事がなかった事にはなりませんよ」
「え?」
アリーシアの言葉に、ルートヴィッヒは固まった。
「当然です。いくら王命といえど、遠征から帰ってきてからのルートヴィッヒ様の態度には、とても傷つきましたもの」
「す、すまない」
「それに、夜会にわたくしではなくミーア王女殿下と出られた事、忘れたわけではありませんわ」
「も、もっともだ。あれは私も本当に心苦しくて、何度言おうとしたか……」
そういえば、あの時やたらとルートヴィッヒがアリーシアをジッと見ていたことを思い出す。
その上でアリーシアは、しっかりと釘をさしておいた。
「目で訴えられても、伝わりませんわ。しっかりと説明して頂きませんと。あの夜会に参加していた多くの方々も見ておられましたのよ?」
「す、すまない。あの時の事は、後日わがエルンザーレ侯爵家として、全力で汚名を注がせて頂く! もちろん陛下にもお力添えを依頼し、君の名誉を回復してもらう!」
言質は取ったとアリーシアはほくそ笑む。
(とりあえずはこんなものかしら。後はゆっくりと気持ちが晴れるまで、この方に反省して頂きましょう)
「では、ルーイ。改めまして、今後とも末永くお願い致します」
ルーイ呼びをされたルートヴィッヒは、とても嬉しそうな表情をした。
「こちらこそ、末永くよろしく頼む。私の未来の妻、アリー」
二人はお互いの顔を見合わせて、同時に楽しそうに、幸せそうに笑い合った。