婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
 彰さんと婚約してからも、今日のように彼の仕事関係の場に顔を出す機会は何度かあった。

 ただ、彰さんは口頭で私の欠点を指摘したが、どうやって改善したらいいのかは言わなかった。いつだって『努力してくれいなかな』と、冷たい笑みを向けられるのみ。

「私に、そんなことができるでしょうか」

 こんなふうに返している時点で、話に乗り気だと伝わっているだろう。
 自分なりにがんばってきたつもりでも、彰さんからはできていないと呆れられるばかりだった。だから、自信なんて少しもない。

「俺がついているんだ。できるに決まっているだろ?」

 間髪を入れずにきっぱりと言い切る彼に、一瞬呆けてしまう。

「で、ですが、あなたに頼りっきりというのは……それに、仕事をしていない状態は落ち着かないというか」

 ハッとして、一番の件念を口にする。

 契約の関係なのだから、いずれは離婚になるはずだ。そうなったとき、ひとりで生きていく力がほしい。

「結婚したすぐは、いろいろとバタバタするだろう。おまけに、俺の予定に付き合ってもらうことも出てくる。だから、それを君の仕事だと思ってくれたらいい。もちろん、落ち着いてきた頃にさらに働きたいというのなら、自由にしてくれてかまわない。なんなら、君の思う形の仕事を紹介することもできる」

 提示された好条件に、迷いが少しずつ晴れていく。

「家事なんかは人を雇うとして、君は――」

「い、いいえ。それくらいは私にやらせてください」

 思わず彼の言葉を遮っていた。

 私の目をじっと覗き込んだ本条さんは、それからフッと優しい笑みを浮かべた。

「つまり、俺の提案を受け入れてくれると?」

「その……はい」

 現状を変えたい。
 諦めてばかりの人生から逃げたい一心で、彼にうなずき返した。





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