婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「そっちが凪の部屋だ。俺の部屋意外は、自由に使ってくれてかまわない」

「はあ」

 連れて来られた彼の豪華すぎるマンションに唖然として、気の抜けた返事になってしまう。

 私のために用意してくれた部屋には、ベッドやドレッサー、机などがあらかじめそろえられていた。スペースも十分すぎるほど広く、今すぐに生活を始められる。

「それから、リビングはこっちだ」

 都心の一等地にあるため、交通のアクセスも普段の買い物もすべてにおいて利便性がいい。
 広々としたリビングは、全面ガラス張りになっている。夜になったら、きっと素敵な夜景を楽しめるのだろう。
 キッチンはそれほど使っていないと言うけれど、道具や調味料はある程度そろっている。

 これだけ広い部屋を綺麗に維持するのは相当大変そうだが、その辺りは業者に頼んでいたという。今後はそれを、私の仕事にさせてもらうことになった。

 部屋の案内が終わり、自室に戻って荷物を片づけていく。
 といっても、彼と出会ったあの日から実家にも彰さんのもとにも帰っておらず、手もとには必要最低限のわずかなものしかない。だからあっという間に片づけ終えて、ベッドの淵に座った。

 目まぐるしい変化を受け入れきていないが、腰を落ち着けたことで少しほっとする。そのまま目を閉じて、怒涛の数日間を思い起こした。





< 12 / 85 >

この作品をシェア

pagetop