婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「結婚しておられたわけでもなく、婚約といっても正式に結納を交わしたわけでもない。いわば口約束だけの関係。問題なく、婚約は破棄できるでしょう」

 そう言ってもらえて、ほっとする。

「もちろん、お相手の有責になります。しかし、本条様よりなにも求めず最速で縁を切っておきたいと言われているのですが、実川様はそれでよろしかったですか?」

「かまいません」

 変にもめて長引かせたくない。そんなことになれば、本条さんにも迷惑をかけてしまう。

 私の意思を確認した佐々木さんは、それからすぐに動いてくれた。

 いきなり弁護士が現れたことで、彰さんがどんな態度に出たかはわからない。
 対外的には好青年を装っている彼のこと。自身の非を責められても、なかなか認めないはず。
 でも私から多数の証拠を提出してあるため、言い逃れはできなかったのだろう。

 結局、彼と一度も顔を合わせないまま婚約の解消が成立していた。それより先に、完全につながりを断つためにこれまで使っていたスマホは解約している。だから、ますます彰さんの反応はわからないままだ。

 さらに佐々木さんには、凌也さんから私の両親の対応もお願いしてある。
 婚約の解消を伝えられて、両親や玲奈はどう思っただろうか。
 想像すると怖くなり、目を背けたくなる。逃げてばかりなのは情けないけれど、今の私では彼らに自分の気持ちを伝えることすらできそうになかった。





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