婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました

初めての恋

 凌也さんと結婚して、十日ほどが経った。
 新生活に完全に慣れたわけではないけれど、凌也さんがなにかと気にかけてくれるから平穏に過ごせている。

『できる限り、夕飯を一緒に食べるようにする』

 これまでの彼がどんな生活を送っていたのかはわからない。それを聞けるほど、気安い仲にはまだなれていない。

 私が少しでも打ち解けられるよう、凌也さんは気遣ってくれるのだと思う。彼に無理をさせていなければいいけれど、その気持ちがうれしい。

 彼の喜ぶ顔が見たくて、最近は料理の勉強に熱が入る。

『凪は料理上手だな』

 昨夜かけられた言葉を思い出しながら、出かける準備をする。

 用意ができて外に出ると、途端にむわっとした空気に包まれる。彼のマンションがいかに快適な空間だったかを感じながら、夏空の下を歩き始めた。

 電車を乗り継いで、目的のカフェに到着する。扉を開けると、中から漂ってきた冷気が火照った体に心地よかった。

「凪!」

 私に気づいた親友の美琴が、手を振る。自然と笑みが浮かび、足早に近づいた。

「待たせちゃって、ごめんね」

「ううん、大丈夫。それにしても、久しぶりね」

 いろいろと報告することもあて、今日は私から彼女に声をかけていた。

 美琴とは幼少期からの付き合いで、以前は月に一度は食事やお茶をして過ごしていた。
 引っ込み思案でマイナス思考になりがちな私を見限らず、今でも親友でいてくれる唯一無二の存在だ。

 それにもかかわらず、鏑木さんとの婚約が決まった報告を最後に私は連絡すら絶っていた。美琴と顔を合わせるのは、実に四カ月ぶりになる。

 疎遠にしていたのは、元婚約者が理由だ。あの人は私の動向をすべて把握したがり、性別問わず誰かと連絡を取ったり会ったりすることをよしとしなかった。
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