婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
約束の週末になり、出かける準備をする。
今日は前に凌也さんが用意してくれた、薄いイエローのワンピースを選んだ。明るい色合いで肌馴染みもよく、華やいだ雰囲気に見える
凌也さんとふたりで出かけるのだからと、メイクはいつも以上に念入りに施す。髪は編み込みを入れつつ、お団子にまとめた。
慣れないオシャレは勇気がいるが、仕事で彼の隣に立つときはこれでもぜんぜん足りないはず。それでも、まずは自分にできる精いっぱいを尽くしたい。そう思いながら仕上げていった。
バッグを手にリビングへ向かうと、凌也さんがすでに待っていた。
今日の彼は、白いシャツに細身の黒いパンツを合わせている。ラフなのにきちんとして見えるのは、そのスタイルのよさと凛々しい顔立ちの影響だろうか。
「待たせてしまいましたか?」
ごめんなさいと言いかけたのをなんとかのみ込む。
『意味のない謝罪を、簡単に口にしてはいけない』
このマンションに来た当初、彼は私が謝るたびにそう繰り返した。これまでまったく意識していなかったけれど、そういえば私は人と接するときに謝罪ばかりしていた気がする。
凌也さんの視線が、私の全身をざっと確かめる。
「よく似合っているじゃないか。綺麗だよ、凪。俺と出かけるためにオシャレをしてくれたと思うと、なかなかうれしいものだな」
ふわりと微笑む凌也さんに、胸がどきどきしてくる。
「りょ、凌也さんが用意してくれたこのワンピースが、素敵だから」
彼がそこまで言ってくれても、自分に自信が持てない。よく見えるのは、この服のおかげ。選んでくれた彼のセンスがいいからだ。
「服は凪の魅力を引き立てているだけだ。ほら、行こう」
私の卑屈な考を、彼はサラリと流してくれる。だから自分も、これ以上深く考えないでいられる。
凌也さんに続いて、玄関を出た。
行き先は、表参道。オシャレな街だという印象はあるが、訪れる機会のなかった私には未知の世界だ。
「従妹や会社の女性スタッフが勧めてくれた店が、周辺にいくつかあるようだ。そこで凪の気に入るものを探そう」
「はい!」
つい弾んだ声になり、凌也さんが笑みを浮かべた。
鏑木さんと婚約していた頃は、なにに関しても私に選択権なんてなかった。
会食の場には、彼に指定された服を着ていく。メイクも髪形も、ナチュラルで控えめに。
言われたように仕上げても、あの人はお世辞にも似合っているとは言わない。
いつもきまって、『まあまあ、見られるかな』という評価をされる。文句を言われなかったというだけで、ほっとしていた。
婚約中は彼を不快にさせないようにと常に気を張り、マンションにいても心が休まるときなんてなかった。
あの状態がいかに異常だったの、凌也さんと暮らすようになって徐々にわかってきた。
鏑木さんは、自分の言いなりになる妻を求めていたのだろう。もとからそんな暮らしをしてきた私は、あの人にとって都合のいい存在だったに違いない。
今日は前に凌也さんが用意してくれた、薄いイエローのワンピースを選んだ。明るい色合いで肌馴染みもよく、華やいだ雰囲気に見える
凌也さんとふたりで出かけるのだからと、メイクはいつも以上に念入りに施す。髪は編み込みを入れつつ、お団子にまとめた。
慣れないオシャレは勇気がいるが、仕事で彼の隣に立つときはこれでもぜんぜん足りないはず。それでも、まずは自分にできる精いっぱいを尽くしたい。そう思いながら仕上げていった。
バッグを手にリビングへ向かうと、凌也さんがすでに待っていた。
今日の彼は、白いシャツに細身の黒いパンツを合わせている。ラフなのにきちんとして見えるのは、そのスタイルのよさと凛々しい顔立ちの影響だろうか。
「待たせてしまいましたか?」
ごめんなさいと言いかけたのをなんとかのみ込む。
『意味のない謝罪を、簡単に口にしてはいけない』
このマンションに来た当初、彼は私が謝るたびにそう繰り返した。これまでまったく意識していなかったけれど、そういえば私は人と接するときに謝罪ばかりしていた気がする。
凌也さんの視線が、私の全身をざっと確かめる。
「よく似合っているじゃないか。綺麗だよ、凪。俺と出かけるためにオシャレをしてくれたと思うと、なかなかうれしいものだな」
ふわりと微笑む凌也さんに、胸がどきどきしてくる。
「りょ、凌也さんが用意してくれたこのワンピースが、素敵だから」
彼がそこまで言ってくれても、自分に自信が持てない。よく見えるのは、この服のおかげ。選んでくれた彼のセンスがいいからだ。
「服は凪の魅力を引き立てているだけだ。ほら、行こう」
私の卑屈な考を、彼はサラリと流してくれる。だから自分も、これ以上深く考えないでいられる。
凌也さんに続いて、玄関を出た。
行き先は、表参道。オシャレな街だという印象はあるが、訪れる機会のなかった私には未知の世界だ。
「従妹や会社の女性スタッフが勧めてくれた店が、周辺にいくつかあるようだ。そこで凪の気に入るものを探そう」
「はい!」
つい弾んだ声になり、凌也さんが笑みを浮かべた。
鏑木さんと婚約していた頃は、なにに関しても私に選択権なんてなかった。
会食の場には、彼に指定された服を着ていく。メイクも髪形も、ナチュラルで控えめに。
言われたように仕上げても、あの人はお世辞にも似合っているとは言わない。
いつもきまって、『まあまあ、見られるかな』という評価をされる。文句を言われなかったというだけで、ほっとしていた。
婚約中は彼を不快にさせないようにと常に気を張り、マンションにいても心が休まるときなんてなかった。
あの状態がいかに異常だったの、凌也さんと暮らすようになって徐々にわかってきた。
鏑木さんは、自分の言いなりになる妻を求めていたのだろう。もとからそんな暮らしをしてきた私は、あの人にとって都合のいい存在だったに違いない。