婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「それで、凪はどれが一番気に入った?」

 私には決められそうにない。だから凌也さんの反応を参考にしようとしていたのに、当てが外れて困ってしまう。

 自分の意見を言うのは苦手だ。とくに正解がないことは、なにを言ったら相手の機嫌を損ねないかがわからなくて躊躇する。

 すぐには決められず、待たせていることに焦り始めた。
 そんなはっきりしない私を、凌也さんは咎めることなく穏やかな表情で待っている。

 試着を繰り返す間だって、面倒そうにしたり放置したりしない。毎回ちゃんと思ったことを伝えてくれた。
 その内容が褒め言葉ばかりなのは、どう反応していいのか戸惑うが。私に向き合ってくれる彼の気遣いはうれしい。

 そんなことを考えながら、ドレスを見比べる。私がどう見えるかだけでなく、凌也さんの隣に立つことを念頭に意識する。

「凪は明るい色合いとシックなものなら、どちらが好きだ?」

 すっかり考え込んでいると、凌也さんがフォローを入れてくれた。

「私は……シックなものの方が落ち着いていて着やすいなって。でも、これまでなら選ばなかった明るい色合いも気になっていて……」
 
 彼が似合うと褒めてくれるから、今までとは違う系統のものでもいいのではと思えてくる。

「じゃあ、まずこれは決まりだな」

 そう言って凌也さんは、最初に試着をしたローズピンクのドレスを手にした。

「どうして?」

 私からはまだなにも言っていないのにと、隣に立つ彼を見上げる。

「凪はこれを一番見ていただろ?」

 たしかに明るい色味のものの中では一番フィットしていて、肌触りもよかったから候補のひとつにしていた。それに装飾が控えめな清楚なデザインも、自分の好みと合っている。

「それに、普段とは違った雰囲気を俺が気に入った」

 なんだか意味深な言い回しにも聞こえるが、彼の好みに合うのならぜひこれを選びたい。

「私も気になっていた一着なので、これでお願いします」

 結局はひとりで決められなかったが、すごく満足している。

「シックな色合いからも一着選ぼう。どれがいい?」

 ようやくミッションをクリアしたと思ったが、課題はまだ続いているようだ。それが嫌でも負担でもなくて、再びドレスを見つめる。

 ブラックにネイビー、それからダークグリーン。光沢を抑えた落ち着いたデザインばかりで、どんな場にも合いそうだ。
 その中でも一番シンプルで、小物の合わせ方次第でどんなふうにも装えそうなネイビーのドレスが目を惹く。

 ハンガーを手に取ると、隣で見守ってくれていた凌也さんが大きくうなずいた。

「それもよかったな。肌が白くて手足が長い凪のよさが、十分に生かされていた」

 おそらく凌也さんは、私がどれを選んでもなにかしら褒めてくれただろう。それがお世辞であったとしても、彼の言葉は自分にも魅力があるのではと明るい気持ちにさせてくれる。

「これで、お願いします」

 ようやくそう言った私に、凌也さんはますます笑み浮かべた。
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