婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
 一真さんたちと別れた後は、せっかくだから街中を散策することにした。

 クリスマスが来月に迫る中、街は至る所に飾りづけがされている。白いライトで照らされた街路樹が続き、人の集まる広場には大きなツリーが設置されていた。

「綺麗」

 クリスマスだといっても、私になにか特別なことがあるわけじゃない。

 イルミネーションを楽しむためだけに、夜の街をゆっくりと歩いた経験なんてなかった。見ているだけで心が躍り、ついきょろきょろと辺りを見回してしまう。

 斜め上からくすりと笑い声が聞こえて、ハッとする。見上げると、凌也さんが私の顔を覗き込んできた。

「寒くないか?」

「大丈夫」

 コートもマフラーも手袋も、すべて彼が用意してくれた。どれも高価なものばかりで、とても温かい。

「ならよかったが、手袋は不要だったかな」

「どうして?」

 首をかしげる私の耳もとに、凌也さんが顔を近づける。

「手をつなぐ口実がなくなるだろ?」

 つまり、そうやって温めてくれるつもりだった……?

 あたふたしている間に、腕を離した凌也さんが手をつないできた。

「ああ、そうか。俺たちは夫婦だから、口実なんて考えずに手をつなげる仲だったな」

 ぶわりと顔が熱くなり、彼と目を合わせられない。
 今思いついたかのように言っているけれど、絶対に意図的な発言だ。慌てる私を、楽しんでいる節がある。

 凌也さんは、私にたまに意地悪になる。
 もちろん、義母や義妹のように本気で私を傷つけようとするものじゃない。戯れ感覚で、場を和ませるもの。けれど、私の心を揺さぶるようなやりとり。

 プライベートだから見せる顔なのだろう。それはもしかして、彼が私に気を許しているということなのかもしれない。
 恥ずかしい半面、うれしさに心が浮かれてしまう。

 ふわふわとした気持ちで、もうしばらく散策を楽しんだ。 
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