婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「あなたはいつもそうだ」

 彼からの非難の目は、身に覚えがあるため甘んじて受け入れておく。

 幼少期の俺は、なにかと捨て犬や迷い猫を拾って自宅に連れ帰っていた。
 父はそれを呆れつつ、『最後まで自分で責任を持って世話をしなさい』と飼うことを許可した。

 その言葉の意味は、世話を始めてようやく知ることになる。
 どれだけ大変でも、決して投げ出してはいけない。それでも手が回らないときは、一真を巻き込んでいた。今となっては笑い話だ。

「だから、責任を持って俺が結婚すると言ったんだ」

 決して、凪をペットのように思っているわけではない。助けてやりたいだけだ。

 まったく理解できないと、一真が顔をしかめた。が、すぐに表情を緩める。

「まあ、あなたの人を見る目が確かなのは信じています。ご家庭の事情意外には、なにも問題はないと判断したんでしょう? それなら、凪さんについてもう少し教えてください」

 一真が俺を信頼してくれていることも、長年近くに入ればわかっている。彼は自ら秘書になると決めて努力を続け、自力で今の地位を得ている。そんな一真を、俺も信頼している。

 結婚するからには、凪にはいずれ仕事関係の場に一緒に出席してもらう機会が出てくる。俺の秘書として、彼女について把握しておきたいのだろう。
 一真が望むまま、現状を話して聞かせた。

「ちょっと待ってください。つまり凪さんは今、政治家の鏑木彰と婚約状態にあると?」

「言ってなかったか?」

「聞いていませんよ」

 俺の中で鏑木と婚約はすでになきものとしていたせいで、話していなかったようだ。

「問題ない」

 ありまくりだと不満たっぷりな視線を向けられるが、気づかないふりをする。

「弁護士を挟んできっちりと片をつける手はずを整えたし、婚約が解消されるまで凪との接触は控える」

 それほど時間をかけずに解決できると宣言した俺に、一真は頭が痛いと嘆いた。

「あなたのことなので、抜かりなく進めているとは思いますが」

「その通りだ」

「はあ……わかりました。こちらはそのつもりで動きますから」

「頼んだ」
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