婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
 それから十日ほど経った頃に、すべてを解決させて凪を自宅に招き入れた。

 彼女が終始、不安そうにしているのはもっともだろう。
 鏑木との婚約の解消や、彼女の実家との話はすべて依頼した弁護士が担っている。
 凪がこれ以上傷つかないように、鏑木や家族と顔を合わせないまま話を進めてきた。状況は逐一彼女に話しているが、相手のひどい反応までは伏せている。だから本当に縁は切れたのかと、納得しきれていないのかもしれない。

 自分を傷つける人間など、早々に忘れてしまえばいい。彼女を否定した人間のことなど考える暇も与えない。
 凪には俺の妻になるのだという明確な未来を見せて、それに向かってやるべきことを示してやる。

 戸惑い気味ではあるものの、真面目な彼女は素直に応じた。

 ただこれまでの過酷な生活で染みついた、過剰なほどの控えめな態度がすぐに改善されるわけでもない。
 必要なものだからと、彼女の身の回りをそろえようとすれば、『もう十分です』とすぐに遠慮する。
 それをもどかしく感じつつ、半面でいじらしい様子が俺を煽る。

 彼女にもっと我がままを言わせたい。俺のもとにいる限りそれくらいしてもいいのだと、安心できる環境を整えてやりたい。
辛い思いをしてきた凪を、今後は誰よりも幸せにしてやりたい。そのために、もっともっと凪を甘やかすつもりだ。

ここ数日はそんな気持ちが駄々洩れになっていたようで、一真が苦笑する。

「凪さんが夕食を作って待っているから、今夜の会食は副社長に振ったと?」

「そうだが」

「まあ、これまではひとりで抱え込みすぎだったくらいなので、その判断は間違いじゃないです。私も以前からそう進言していましたしね。ですが、動機にびっくりですよ」

 普通だろ?と不満を隠さない視線を送った俺に、一真が眉をひそめた。

「どれだけ奥さんが好きなんですか」

「好き?」

「どうして疑問形で返すんです? これまでさんざん惚気ておいて」

 ますますわからない。
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