婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「これで、大丈夫でしたか?」

「ああ、問題ない」

 笑みを返してくれる凌也さんに、「噂って……?」と尋ねる。

「俺は何度もお見合いを断わってきた上に、それ以上の数の身上書もいっさい応じていない。それが知られていたようで、結婚するつもりはないと思われてらしい」

 もしかして、その数は私が想像する以上なのかもしれない。

「そんな俺が突然、凪と結婚しただろ?」

「え、ええ」

 嫌な予感に、顔が引きつりそうになる。

「どこのお嬢さんだとか、どれほど美人なんだろうとか、知り合いの間でいろいろ言われているようだ」

 凌也さんが呆れた顔をする。知らないところでハードルを上げられた私としてはたまったものじゃない。

「私で、よかったんでしょうか?」

 もっと彼にふさわしい女性がいたはず。私のように契約の関係ではなくて、心から想い合えるような。

「当然だ。俺は、凪と出会えたことを幸運だったと思っている」

 縁談避けにもってこいの存在だというのが正解なのに、凌也さんは人を傷つけるような言葉は使わない。その優しさに、ますます好意が大きくなってしまう。

「あ、ありがとうございます。私も……凌也さんと結婚できて幸せです」

 気恥ずかしくて、彼の方を見られない。

 いろいろと諦めてきた私が、まさかこんなに素敵な人と出会えるとは思ってもみなかった。

 契約結婚をするにしても、私よりももっと都合のいい相手はいたはず。
 それなのに彼は、引っ込み思案ですぐにうつむく私に根気よく付き合ってくれた。一度も面倒だと顔に出すことなく。

 だからこそ、私も凌也さんのために努力をしたいと思う。

 意を決して彼を見上げる。

「私、もっともっとがんばりますから」

「そんなに気負わなくてもいいが、凪のその気持ちはうれしいよ」

 目を細めて頬をさらりとなでられる。途端に顔が熱くなって、あわあわとうろたえた。
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