婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「は、離してください」
「あんたが今すぐ離婚して、戻ってくるというのならね。もちろん鏑木さんに謝罪して、もう一度婚約を取り付けることが条件よ」
「無理です。私はもう、結婚していますから」
繰り返し主張すると、玲奈の手にますます力がこもる。
「凪は言われた通りにしていればいいのよ」
過去の私が従順だったせいで、玲奈も義母もここまで横暴に振る舞うようになってしまった。
「誰になにを言われようと、凌也さんと別れるつもりはありません」
苛立ちに任せて、玲奈が私の腕を捻り上げる。必死で抵抗しているが敵わない。
騒ぎを大きくしたくなくて、言葉で必死に訴える。
「私は彼を愛しているんです。あなたの言葉には従いません」
「なにをしている!」
不意に割り込んだ声に我に返った。
険しい表情で近づいてきたのは、凌也さんだ。
「妻に手をあげるのは許さない」
掴んでいた手をパッと離した玲奈は、打って変わって凌也さんに笑みを浮かべてみせた。
「そんな物騒な言い方をしないでください。姉と、話していただけなんです。ところで凌也さん」
「本条玲奈だな」
私の腕を引いて、玲奈から離してくれる。
凌也さんが自分のことを知っていたからか、玲奈がパッと明るい表情になる。彼の声音が冷ややかなものであると気づかないのか。
「初対面にもかかわらず、親しげに呼ぶなど常識もないのか? 不愉快だ」
「なっ」
凌也さんがここまで厳しい態度を取ったところを、私は見たことがない。
「なにか、誤解していません? ああ、そうか。姉が私たちのことで、あることないことを言いふらしたんじゃないです?」
「れ、玲奈」
なにを言うのかと、玲奈を止めようと身じろぐ。でも凌也さんが、彼女に伸ばしかけた私の腕を止めた。
「やっぱりそうですよね? 昔から虚言壁のある姉で。私や両親のことを悪く言っては、周りの同情を集めようとするところがあるんです」
息をするように平気で嘘を並べる玲奈が怖い。まるで自分たちは被害者だと訴えるように、心底辛そうな顔をする。その目に、うっすらと涙が浮かぶ。
「自分が不出来なことを棚に上げて、妹の私に嫉妬してばかりで。これまでさんざん酷いことを言われたし、叩かれることも――」
「くだらないな」
凌也さんの低いつぶやきに、玲奈が眉間にしわ寄せる。
「自分より優秀な姉に対する嫉妬か?」
「凪に、嫉妬?」
玲奈が首をかしげる。
「なにを言ってるのかしら?」
さっきまでの媚びる様子は鳴りをひそめ、彼女は懐疑的な視線を凌也さんに向けた。
「あんたが今すぐ離婚して、戻ってくるというのならね。もちろん鏑木さんに謝罪して、もう一度婚約を取り付けることが条件よ」
「無理です。私はもう、結婚していますから」
繰り返し主張すると、玲奈の手にますます力がこもる。
「凪は言われた通りにしていればいいのよ」
過去の私が従順だったせいで、玲奈も義母もここまで横暴に振る舞うようになってしまった。
「誰になにを言われようと、凌也さんと別れるつもりはありません」
苛立ちに任せて、玲奈が私の腕を捻り上げる。必死で抵抗しているが敵わない。
騒ぎを大きくしたくなくて、言葉で必死に訴える。
「私は彼を愛しているんです。あなたの言葉には従いません」
「なにをしている!」
不意に割り込んだ声に我に返った。
険しい表情で近づいてきたのは、凌也さんだ。
「妻に手をあげるのは許さない」
掴んでいた手をパッと離した玲奈は、打って変わって凌也さんに笑みを浮かべてみせた。
「そんな物騒な言い方をしないでください。姉と、話していただけなんです。ところで凌也さん」
「本条玲奈だな」
私の腕を引いて、玲奈から離してくれる。
凌也さんが自分のことを知っていたからか、玲奈がパッと明るい表情になる。彼の声音が冷ややかなものであると気づかないのか。
「初対面にもかかわらず、親しげに呼ぶなど常識もないのか? 不愉快だ」
「なっ」
凌也さんがここまで厳しい態度を取ったところを、私は見たことがない。
「なにか、誤解していません? ああ、そうか。姉が私たちのことで、あることないことを言いふらしたんじゃないです?」
「れ、玲奈」
なにを言うのかと、玲奈を止めようと身じろぐ。でも凌也さんが、彼女に伸ばしかけた私の腕を止めた。
「やっぱりそうですよね? 昔から虚言壁のある姉で。私や両親のことを悪く言っては、周りの同情を集めようとするところがあるんです」
息をするように平気で嘘を並べる玲奈が怖い。まるで自分たちは被害者だと訴えるように、心底辛そうな顔をする。その目に、うっすらと涙が浮かぶ。
「自分が不出来なことを棚に上げて、妹の私に嫉妬してばかりで。これまでさんざん酷いことを言われたし、叩かれることも――」
「くだらないな」
凌也さんの低いつぶやきに、玲奈が眉間にしわ寄せる。
「自分より優秀な姉に対する嫉妬か?」
「凪に、嫉妬?」
玲奈が首をかしげる。
「なにを言ってるのかしら?」
さっきまでの媚びる様子は鳴りをひそめ、彼女は懐疑的な視線を凌也さんに向けた。