婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「だが、噂ほど当てにならないものはないな。どう見ても、君はそんな女性じゃない」

「……え?」

 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。

「単に自信がないだけ。それから、周りに敵しかいない。ここまで見聞きしたことと、実際に君に接した様子から考察したてみたが、違うか?」

 わずかにも違わないその読みに、なにも言えなくなる。ただひたすら、目の前のテーブルに視線を落としていた。

 追い詰められている気分なのに、わかってもらえたうれしさが込み上げてくる。けれど、それを表に出しはしない。

 重い沈黙が流れる。
 気まずく感じているのは私だけなのだろう。
 なにもかも知られているこの人に隠し事をしてなんの意味があるのかと、諦めたような気持ちになった。

「……間違っては、いない、です」

 震える指先を、テーブルの下でぐっと握り込む。

「なにがあっても、あの男と一緒にいたいのか?」

 思わずパッと顔を上げて、首を左右に振った。

 噛みしめた唇は震え、全身であの人を拒否する。
 彰さんと一緒にいたいと思ったことなど、一度もない。
 ただ行く当てがない上に、実家に戻ったところでどんな仕打ちが待っているのかが怖かっただけ。私には、与えられた状況に必死にしがみついているしかなかった。

 私の反応をじっとうかがっていた本条さんが、ひとつうなずく。

「それなら、俺が助けてやろうか?」

「え?」

「事情を打ち明けてくれたら、必ず力になってやる」

 初対面の彼にそんなふうに言わせるほど、私は情けない姿を晒していたのだろうか。
 途端に恥ずかしくなる半面、初めてそんなふうに言われてどうしていいかわらかない。

「すぐに断らないということは、迷っているんだろ?」

 そうなのかもしれないと、彼の指摘に自分の気持ちを自覚する。

「君の話も含めて、許可なく他人にあかさないと誓う。他人事とはいえ、鏑木の振る舞いも実川家のやり方も不愉快だ。そういうの、許せないんだ」

 この人は、ものすごく正義感の強い人なのだろう。
 真っすぐすぎる彼の言葉に、涙がこみ上げてきそうになる。

 もしかしたら、同業者として探りを入れているのかもしれない。一瞬そう疑いかけたが、本条グループほどの大企業がうちなど相手にするはずがない。
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