婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「私を助けるために結婚までしてくれて。その契約の関係なのに、あんなふうに助けてもらえて、う、うれしかった、です」

 だんだん恥ずかしくなってきて、言葉が途切れ途切れになる。

 隣に座す彼から逃れるように、顔をうつむけた。

 冗談交じりにからかって、流してくれないだろうか。私に自信をつけさせるために、ますます甘い言葉をかけられたらどうしよう。
 そんなふうに考えながら、じりじりと時間が過ぎる中。手に持ったままだったカップを、不意に取り上げられた。

「え?」

 思わず顔を上げると、凌也さんと視線が絡む。予想に反して熱のこもった瞳で私見つめられ、ゴクリと喉を鳴らした。

「凪を愛しているのは、俺の本心だ」

「ほん、しん……?」

 なにを言われているんだろうか。困惑して、どうしていいのかわからない。
 凌也さんがかまわず頬に触れてくるから、肩が小さく跳ねた。

「最初は、凪を助けてやりたいと思って結婚を提案した。俺にもメリットはあるから、悪くない話だった。だが――」

 言葉を途切れさせた凌也さんが、私の額に口づけてくる。じわじわと体中が熱くなり、羞恥心で瞳が潤んでいく。

「過酷な状況下にありながら人を思いやる心を失わず、何事も努力することを厭わない凪を俺は尊敬している」

 凌也さんがから、視線を逸らせない。

「俺のためにと、けなげに尽くしてくれるところなんてたまらないなあ」

 色気を纏った流し目を送りながら、髪をなでられる。
 鼓動はこれ以上ないほど激しく打ちつけ、呼吸すらうまくできない。

 気づけば彼の両腕は私の背に回され、ますます距離が近づいていた。

「疲れて帰宅すると、可愛い笑顔で玄関まで駆けてくる。それを見ると、一日の疲れも吹き飛んでしまう。自分が凪を守っているつもりだったが、気づけば守られているのは俺の方だった」

 そんなはずはないと、小さく首を横に振る。

「これまで、ひとりでどうやって暮らしていたのか。もう凪のいない生活など考えられない」

 誰かにこんなふうに求められたことなんて一度もない。
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