婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
 凌也さんが私を必要としてくれている。
 温かな幸福感に包まれて涙が込み上げそうになっていると、それに気づいた凌也さんが目じりに口づけた。

「なあ、凪。俺にこうされるのは嫌じゃないか?」

 熱に浮かされたまま、こくこくと首を縦に振る。
 好きな人に触れられて、嫌なわけがない。

「この先もずっと、俺と一緒にいてくれないか? 妻として」

 本当にいいのかと目を見開くと、堪えきれなかった涙が頬を伝い始めた。

「わ、私で、いいの?」

「凪じゃないとだめだ」

 都合がいいから、利用できるからじゃない。私を心から求めてくれる凌也さんに、こんなふうに熱く迫られて拒むなんて無理だ。

「凌也さんのことが……好きなの」

 告げた途端に、彼の胸もとに抱き寄せられる。
 涙で声は震えてしまうだろうけれど、自分の気持ちが知ってほしくて口を開く。

「助けてくれたあなたに依存しているんじゃないかって、何度も考えたの。本気で好きになったら、きっと迷惑になってしまうから」

「迷惑なものか。俺から迫れば、負い目に感じている凪は拒めなくなる。だから凪が本当に自信をつけられたときに打ち明けようと考えていたが、悩ませるくらいならもっと早くに告げればよかった」

 髪に額に、何度も口づけられていく。
 それから凌也さんは、私の首筋に顔をうずめた。

「愛してる、凪」

 肌を掠める彼の吐息に、ぶるっと体が震える。

「わ、私も、凌也さんを愛しています」

 想いを返すと、抱きしめる彼の腕にさらに力がこもった。

 しばらくすると、私の首筋を彼の唇が這っていく。どうしていいのか戸惑いながらも、それを受け入れる。
 熱い唇に肌をはまれ、そわそわする。最初はくすぐったく感じていたのに、だんだん変な気分になっていった。

「……ん」

 こらえきれず、鼻にかかった甘い声が漏れてしまう。
 凌也さんの大きな手が私の背を何度も滑り、体の奥が疼いて仕方がない。

「りょ、凌也さん」

 これ以上はもう耐えられないと、なんとか声をあげる。

「嫌か?」

「い、嫌じゃない、です」

 掠れた声が妙に艶やかで、それだけで体の疼きが増した。
 私の首筋に頬をつけたまま、彼が顔を私に向けられた気配がする。けれどあまりにも近すぎて、そちらを向く勇気はない。
< 73 / 107 >

この作品をシェア

pagetop