婚約者に「いらない」と言われた私が、愛され妻を演じることになりました
「わ、私、体が変で……」

 異性にこんなふうに近づいた経験がないけれど、一応の知識はあるつもりだった。

 けれどほんの少し彼に触れられただけで、なんだかふわふわしてなにも考えられなくなってしまう。
 決して嫌ではないものの、このままではもどかしさばかりが募っていく。

 凌也さんが頬に口づけた。それから体をわずかに離し、至近距離から私の顔を覗く。

「凪にもっと触れたい」

 熱い懇願に、ひと際大きく鼓動が跳ねる。

「だめか?」

 だめじゃないと、頭で考えるよりさきに首を振っていた。

 瞼を閉じた凌也さんが、顔を傾ける。キスをされるのだと気づき、私も慌てて目を閉じた。

 触れる程度に、唇が重なる。
 それだけで胸の奥が熱くなり、たまらず彼に腕を掴んでいた。

 角度を変えながら、私の唇を何度もはんでいく。それから舌で唇をツンッと突かれて、思わず口を開けた。
 彼の熱い舌が、口内にそろりと差し込まれる。

 驚いてビクッと体を震わすと、なだめるように頭をなでてくたから強張りはすぐに解れていった。

「んん……」

 口内をゆっくりとまさぐり、それから私の舌を絡めとる。その間どうしていいのかわからず、彼にすべてを任せてしまう。
舌の表面を何度も擦り合わされ、触れられてもいない下腹部の奥がジンジンと疼きだした。

「はあ……」

 ようやく解放されて息を吸い込む。初めてキスに勝手がわからず、呼吸もままならないでいたのはバレているだろう。
 そんな私を、凌也さんは笑うことなく優しく抱き寄せた。

「ベッドへ行こう」

 ドキドキしながら小さくうなずく。

「きゃあ」

 素早く立ち上がった凌也さんは、私を軽々と横抱きにして歩きだした。
 向かったのは、彼の寝室だ。
 いつも私が掃除をしているから、入るのは初めてじゃない。そのときも多少緊張したが、今はその比ではない。

 ベッドの中央にそっと降ろされる。
 私の表情はたぶん強張っているだろう。笑みひとつ浮かべられない私を、凌也さんは抱きしめてくれた。

「大切にする。だから、俺に凪を愛させて」

 どこまでも優しい凌也さに応えたい。
 でも上手く声が出せそうになくて、無言のままうなずいた。
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